526 冬の支度に備えよう
ボクはソウイチロウさんに教えてもらったレーゾーコを作るために、今は使っていない武器防具倉庫を使うことにした。
「ユカ、こんなとこに来てどうするつもりだ? ここは空気が澱んでいて食糧倉庫には使えないんだぞ」
そうだったんだ。
実際ここは倉庫として使おうとしたことがあったらしい。
だがここでは食料を保存することはできなかったのでこの地下室を使わなかったということだったようだ。
だがボクのスキルならそれも関係ない。
この地下室全部を氷漬けの場所にしてしまえばいいのだ。
幸い氷に覆われた場所はボク(ソウイチロウさん)が大魔女エントラ様の城に向かう途中の高い山の中で踏み込んだことがある。
ボクのスキルはどうやら一度踏んだことのある地面ならマップチェンジができるらしい。
つまり、この地下室の床を解けない氷の床にしてしまえばいいんだ。
「ボクの目の前の床を全て氷漬けの地面にチェンジ!」
「何だと!? 床を全部氷にしただって?」
「なるほどねェ。確かにこれなら保存は可能だねェ」
ボクのスキルで作った凍り付いた地面は溶ける様子も無く、辺りは一面涼しいを通り越して寒い空気に包まれた。
「何だ何だ、これは流石に寒すぎるだろう」
父さんが珍しく泣き言を言っている。
どうやら父さんは寒いのが苦手らしい。
仕方なく父さんは一度地下室の外に出て毛皮のコートを被って戻ってきた。
「確かにこれなら食料を腐らせずに済みそうだ」
「父さん、コレって使えそう?」
「ああ、ここが使えるなら食料の備蓄の問題は解決できそうだ」
父さんはその後外に出て、村の人達と仕分けた備蓄用の食料をこの凍り付いた地下室に運び込んだ。
「よく考えたねェ。確かにこれなら食べ物を冷たい場所に置いて保存することもできるねェ」
大魔女エントラ様が部屋の中で魔法を唱える。
「フリージングウォール」
大魔女エントラ様の唱えた魔法は部屋の中に氷で出来た巨大な壁を作ってしまった。
「え? 一体何をしたんですか?」
「ユカ、その氷の壁の一部を壊せるかねェ」
「は、はい。これくらいなら」
ボクは遺跡の剣で壁の一部を切り裂いた。
確かに硬いかもしれないが、魔将軍パンデモニウムの外装に比べればよほど斬りやすい。
ボクは大魔女エントラ様の指示通り、縦に四角く人一人が通れるくらいの横穴を斬り空けた。
「さあ、奥に入ってみるんだねェ」
「さ。寒いっ!」
氷の壁で地下室の中に隔てられた小さな部屋は、入った瞬間とんでもない寒さに見舞われた。
「これだけ涼しければ長持ちさせたいものはここにしまえば良いからねェ」
涼しいを通り越してメチャクチャ寒いんですけど!
「この氷の壁は妾の魔力で作ってるから決して溶けないからねェ。安心してモノを中にしまっておけるってワケだねェ」
「大魔女エントラ様、本当にありがとうございます!」
父さんが深く頭を下げてお礼をした。
「お礼はいいから、さっさとここの中に食べ物をしまうんだねェ」
「はい、かしこまりました!」
父さんと村の人達は地下の氷で出来た倉庫に備蓄用の食べ物を全部しまい込んだ。
干し肉も必要なもの以外はこの中に十分しまえるだけの広さがある。
夕方陽が落ちるころには作業が全部終わった。
「みんなー、そろそろ夕食の時間よーっ」
母さん達が食事の準備を終わらせてボク達を呼んでくれている。
本格的な祭りの食事は明日から準備するとして、今日はありあわせのものでシチューを作ってくれたらしい。
「ああ、今行くから待っててくれ」
「わかった、今行くよー」
倉庫に備蓄食料を全部しまったボク達は、母さんの待つ食堂に向かった。
流石は男爵様の家だ。
食事するのに専用の食堂があるとは。
ボク達は村の人達も一緒に夕食のために食堂に向かった。
食堂にはエリアさんやホームさん、ルームさん達がすでに食事の準備を終わらせて着席していた。




