51 本当のプロフェッショナル
話としては、ゴーティ伯爵はホームとルームの双子に通行手形を出す事をあまり賛成はしていないが、頑なに反対しているわけでもないようだ。
「ボク達が通行手形を出してもらうのは問題ないのでしょうか?」
「はい、ユカ様、エリアさん、マイルちゃんに出すのは特に問題はありません」
「ゴーティ様! 私を子ども扱いはやめてくださいっ!」
「フフフ、懐かしくてね……ついつい」
と言いつつもマイルさんは猫耳と尻尾をパタパタしている。本当は嬉しいのだろう。
「それで、マイルさん。商隊のリーダー役はやってもらえますね?」
「わかりました……ってわーったよ! もう堅苦しいのはやーめ! どーせ正体バレちまったし。今のあーしの方が気楽にやってられるからねぇ。まあ商人のフリくらいなら仕事だと思ってやってやるよ」
「マイルさん、昔の貴女も今の貴女も素敵な女性には変わりませんよ。今は亡きお父上に誇れる美しい貴女でいてください」
マイルさんは顔と耳が真っ赤だった、昔から伯爵の事が好きだったのだろう。
「わーった、わーりましたよぉー! さっさと用意してくださーいっ」
「かしこまりました、商隊の準備と貴女の着替えをすぐ用意します」
◆
ゴーティ伯爵はすぐにオトリ用の一商隊を用意した。それはオトリとは思えない程立派なもので馬車数体に武装商人数人と荷物持ち用の人員を合わせた30名前後のものだった。
「これがオトリ……数多くないか?」
「ユカ……」
私を呼び掛けた声はマイルさんだった。彼女は商人の隊長の服装に着替えていた。スラッとしたスレンダーな長身に大きな胸、そしてキャラバンスタイルのフードを被った彼女は商人そのものだった。
「あーし、久しぶりにこういった服着たけど……意外に似合ってるのかもね」
マイルさんは似合ってるどころか、元からずっとこの服を着ていたくらいにフィットしている。
「でもね……気になる事があってねー……あーもーーー見てらんないっ!!!」
マイルさんは商隊のリーダーを見つけるとキッと睨みつけた。
「マイル様、私は商隊リーダーのオンスです。ディスタンス商会には以前お世話になりました。我々は全力でユカ様、マイル様をサポートさせていただきます!」
「オンスさん……私がマイル・ディスタンスです。この商隊の詳細をざっと見させていただきましたが、幾つか足りないものが見られます」
「マイル様? ……確かに我々は実際の商隊とは違う旅劇団のものです。しかし一体何が足りないのでしょうか?」
「まず、馬車が脆弱すぎます。本当の商隊なら酒や油といった液体等も大量に積みます。その上で考えるとこの馬車では人間が数人乗る程度の重さに設定されているはずです。それでは実際の液体を運んだ時に車軸が折れてしまい、長距離の輸送にはとても耐えられるものではありません」
マイルさんは普段の砕けた態度としゃべり方から商売用の顔と淑女のしゃべり方に即座に切り替えていた。やはりマイルさんはゴーティ伯爵の言うように凄い商才の持ち主だった。
マイルさんが言っているのは現代日本で例えると長距離輸送用の荷物をミニバンか2トン軽トラ数台で運ぶようなものだ。本来大型トレーラーで運ぶ荷物をそれで運ぶのは確かによほど金のない会社か加重積載のブラック企業のようなものである。
「ゴーティ様、軍馬と軍用馬車をお貸しいただけますでしょうか?」
「マイルさん、流石だね。いいよ、騎士団長だった時の軍馬と軍用馬車なら数台使っていない物があるからね。好きに使ってくれ」
「そして、あなた方には実際に商人のイロハを教えて差し上げます。今のままでは商人として下の下ですからね!」
マイルさんは普段ちゃらんぽらんな態度に見えたが、いざ何か動く時には徹底的に仕上げないといけないタイプだったらしい。『トライア』の製作スタッフにも似たような性格のがいたのを私は思い出した。これが『本当のプロフェッショナル』の仕事だったのだ。