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522 廃墟の中のアビス

今日で夏休みの仕事が終わってようやく仕事の時間が通常に戻ります。

これで前のペースで更新が可能になるかと思います。

 ボク達は奇妙な廃墟を後にし、コミエンゾ村目指して進んだ。


 その途中でいくつかの村に立ち寄ったが、やはり同じように無人のまま廃墟になったような村がいくつか存在した。


「気味が悪いねェ。村の中のあちこちから瘴気を感じるねェ」

「ここは……数日前まで普通の村だったようです」


 どうやらエリアさんが何かを感じたらしい。


 村の中心部に立ったエリアさんは、何か詠唱を始め、辺りは明るい光で満たされていった。


「ギャァアアアァァァ!」


 エリアさんの詠唱は光を呼び、その光は村にいた邪悪な者達を苦しめた。

 どうやら普通の人達には癒しになる力が、邪悪な怪物には致命傷になるらしい。


「おやおや、いぶり出されて出てきたみたいだねェ!」


 大魔女エントラ様が聖なる光と炎の合成魔法を放った。


「セイントファイヤ!」


 浄化の青白い炎が一瞬で怪物を包み込む。

 そして怪物は本来の姿に戻り、空に消え去った。


「気をつけた方が良いねェ、ここにいるのは普通の人達だったみたいだからねェ」

「帝国騎士団、臨戦態勢につけ!」

「「「了解!」」」


 帝国騎士団が村の中心部に陣形を構えた。


「一体数日で何があったというのだ? ここはモンスターに襲われるような場所ではなかったはずだが……」

「ハンイバルさん、この村に来たことがあるんですか?」

「おう、ここは俺達が南方の援軍に向かう前にこの村に立ち寄って食料とかを調達した場所だ」


 ハンイバルさんの話だと、ここは以前普通の村だったらしい。

 しかし今は邪悪な者達が蠢く廃墟になっている。


「とにかくここに長居するのは得策ではなさそうだ。夜になる前に早く移動しよう」

「ゴーティ隊長、それではここはどうするのですか」

「仕方ないが、今ここにいるのはあまり勧めることは出来ない。ここは早く立ち去った方が良さそうだ」

「仕方ありませんね」


 帝国騎士団は村の貯蔵庫のものを押収し、その場を離れることにした。


「父上、何だか勝手に持って行くのは悪い気がするのですが……」

「ホーム、気持ちは分かる。だがもうここには人はいない。このまま食料が腐っていくくらいなら私達が使った方が少しでも為になる」


 確かにゴーティ伯爵の言う通りだ。

 この廃墟の村に食料があっても誰も使うことも無く腐ってしまうだけだ。


「思わぬ道草になってしまったが、異変が起きていることは分かった。皆の者、即刻出発だ」


 ゴーティ伯爵の指示で帝国騎士団とボク達はその場を離れた。

 今は一刻も早くこの場を離れた方が良い、それがみんなの意見だった。


 そして数日後、ボク達は陸路を歩き、数日後ようやく母さんの待つコミエンゾ村に到着した。


 さあ、母さんの待つ家に早く帰ろう!

 父さんも兄さんも久々の自宅を見て安堵の表情を見せていた。


◆◆◆


「忌々しい人間共ね。アタシちゃんの下僕が消されちゃったじゃないの!」


 誰もいなくなった深夜の廃墟の村に姿を現したのは魔将軍アビスだった。


「まあいいわ。どうにか力を取り戻すことは出来たから。さぁ、これからこの国は阿鼻叫喚の地獄絵図になるのよ……キャハハハハハ!」


 魔将軍アビスは何を考えているのだろうか。

 それは彼女しかわからない。


「さて、アタシちゃんがもう少し力を取り戻すために……そうね、あといくつかの村を滅ぼしてあげようかしら」


 やはり、いくつもの村を滅ぼしていたのは魔将軍アビスの仕業だった。


 誰もいない廃墟で、彼女の笑いだけがこだましている。


「ユカ……エントラ……絶対に許さないからね。アタシちゃんを怒らせたこと、地獄で後悔させてあげる」


 憎悪に燃えた魔将軍アビスは、何かを噛み千切った。

 それは、滅ぼした村の人間の腕だった。


 口から血を垂れ流しながら、廃墟の中の狂気の魔将軍はいつまでも笑い続けていた。

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