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521 奇妙な廃墟

 大魔女エントラ様は何か感じたようだ。

 だが、彼女は魔法を終わらせ、映っていた背景は何もない空間になった。


「さて、あまりこのユカの心の中にいるとユカ自身に負担がかかるからこの辺りで辞めておこうかねェ」

「エントラ様。それで結局バグスが私の世界の誰だったというのですか?」

「……今はまだ知らない方が良いかもしれないねェ」


 どうやら大魔女エントラ様はバグスが誰だったのかを確信したようだ。


 ソウイチロウさんには悪いけど、ボクも知らない方が良いと感じた。


 そして、ボク達は元の場所に戻ってきた。どうやら、大魔女エントラ様の魔法でボクの心の中で会話をしていたのはたかだか数秒にも満たない時間の間のことだったようだ。


『ユカ、あの話は誰にも内緒だからねェ』

『エントラ様、分かりました』

『わかればよろしい』


 大魔女エントラ様がボクにニッコリ微笑んだ。

 それを見たエリアさんが何か複雑な表情をしている。


「どうした、ユカ。気になる人がいるのか? お前も隅に置けないな」

「ととと、父さん! 違うよ、そんなんじゃないって」

「ハハハ、若いっていいな。もっと悩め悩め」


 父さんが笑いながら肩を叩いてきた。

 反論したくてもできない。

 一体こういう時はどう返せばいいのだろうか……。

 ボクはこういう時の対応はほとんど経験が無い。


『ユカ、あまり気にするな。お父さんはお前に女の子の友達が出来たのが嬉しいんだよ。だから素直に、うん、実はそうなんだ。と言っておけばそれでいい』

『ソウイチロウさん、そういうものなんですか?』

『ああ、そういうもんだ。好きな女の子が気になるからいじめたりついつい手を出すなんてのは普通の男の子の反応だからな。ユカもエリアさんが気になってるんだよ』


 そう言われてしまうと何も言いようがない。

 確かにボクはエリアさんが好きなのかもしれない。

 彼女はとても美人で、それでいてとても性格が優しい。

 しかし彼女は普通の人間ではない。エリアさんはこの世界の創世神、『クーリエ・エイータ』の半身なのだ。


 そんな彼女に普通の女の子のような接し方をしていいのだろうか。

 ボクはそれが不安だ。


『ユカ、今はまだ深く考えることは無い。それよりもエリアさんの力を取り戻す方が先だろう』

『そうでした。次にするのはエリアさんのことについて調べることですね』

『そういうことだ。確かに魔族の大軍は私達みんなの力で倒した。だが、魔族が全滅したわけでもない。逃げたゲートやアビスの行方も調べないと』


 そうだ、ボクにはまだまだしなければいけないことがいっぱいある。

 それを一つずつ片付けないといけないんだ。


 まずはみんなで帰ろう。


 ボク達は帝国騎士団のラガハース団長やゴーティ伯爵の兵士達と一緒にコミエンゾ村を目指して進んだ。

 ラガハース騎士団長が言ったように、移動の途中で村を調べたりするためだ。


 ボク達はそうして長い道を歩き続け、数日が過ぎた。


「何だここは! (それがし)達が通った時には間違いなく村があったはずなのに……」


 ボク達はたどり着いたのは誰一人住んでいない廃墟だった。

 いや、廃墟というには新しすぎる。

 数日前まで誰かが住んでいたのかもしれない。

 何故そう言い切れるかというと、入った家の中にあった食べ物がまだ腐っていなかったからだ。


 鍋の中には昨日か一昨日くらいに作ったのかと思われる料理が残っている。


「少し気になるが今はここを調べている場合ではない。早く村に向かおう」


 ボク達は廃墟の村を後にし、コミエンゾ村に向かうことにした。

 一体あの村は何だったのだろうか?


 ボクは何だか気持ち悪いものを感じていた。


「あの村からはとても嫌な魔力を感じたねェ……グリードスライムと似たようなモノだろうねェ」


 グリードスライム!


 そうなるとあの村は、アビスのせいで滅びたのだろうか……?


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