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520 堀口裕信(ほりぐちひろのぶ)

 ボクの心の中の会話はまだ続いている。


 大魔女エントラ様が言うには、あのバグスという謎の男はソウイチロウさんと同じ世界にいた人物のようだ。

 そして、その人物はとても深い憎しみを持っている。

 その憎しみが僕達の世界を滅茶苦茶にしようという原動力なのだろうか?


『エントラ様、あのバグスが私の世界の人だというのは何故わかったのですか?』

『そうねェ、とりあえず……心の中を探った時に分かったのが、ユカ……つまりアンタのいた世界と同じ光景が見えたってとこかねェ。さっきアイツの心を覗いた時に見えたのが何人もが椅子に座って平たい水晶みたいなものに何か作業をしているような感じだったねェ』

『それは……どのような場所でしたか?』

『口で言うより見せた方が良さそうだねェ』


 そう言うと大魔女エントラ様は、ボクとソウイチロウさんに分かるように、彼女が見た光景を再現して見せてくれた。

 そこに映っているのは、確かに何人もの人達が座って作業をしている光景だった。


『間違いない……これは、まだトライエニアックスがトライアだった頃の新作ゲーム開発の風景だ。しかし……何故バグスが私と同じこの場所を……?』

『そこまでは分かりかねるねェ。でも、一つ言えるのは……アイツはアンタと同じ世界、それも全く同じ場所にいた相手ってことになるねェ』


 ソウイチロウさんが何かを考えているようだ。


『しかしあの中で誰か亡くなった人がいるのか? 私の覚えている限りは異世界に転生するような死に方をしたスタッフは誰もいなかったはず。交通事故で亡くなった高本さんならまだしも、でも彼はむしろ転生したら凄腕ゲーマーで無双するような人だっただろうから間違いなく違うだろうし……』


 ボクはソウイチロウさんが何を言っているのか、ほとんど理解できない。

 だけど、あの光景の中にいる人でバグスと同じだと思える人は誰もいなかった。


『ソウイチロウ、時系列的に考えてコレって何時くらいなのかねェ?』

『これは……まだ映画を作る前だったから『ドラゴンズ・スターⅧ』開発初期の頃だな。まだポリゴンがかなり荒いから、大体15年前ってとこか』

『その後誰かこの中で死んだってのはいないのかねェ』

『私の覚えている限りでは、この中で亡くなった人は誰もいないです』


 大魔女エントラ様が髪をいじりながら何か考え事をしている。


『どうやら見当違いだったのかねェ。でもあのバグスってのは間違いなくアンタのいた世界の人間だったみたいだからねェ』

『あの頃で……私達に敵対していたとすると、ライバル会社の誰かなのか?』


 ソウイチロウさんが色々と何かを思い出そうとしている。

 だがそれでも答えにはたどり着かないようだ。


『この心の中の会話は(わらわ)の魔法で時間を止めて話を進めているからねェ。でもそろそろ魔法が切れるからこの話はまた今度だねェ』

『そうですね、何かいいヒントになればいいと思ったんですが……』


 そして大魔女エントラ様は過去の光景を映していた魔法を終わらせようとした。

 その時、部屋の光景の中に、新たに入ってきた男の人の姿が見えた。


「みんな、ご苦労さん。今日はもう上がっていいよ」


 ボクが魔法の光景が終わる前に見た人は、とても優しそうで髭を生やしてメガネをかけた細身の中年男性だった。


「あ、堀口さん。お疲れさまです」

「板上くんももう上がりなさい。もう何日泊まり込んでるんだ? そろそろ休まないと身体を壊すよ」


『ソウイチロウさん、誰ですか? この優しそうなおじさんは』

『この方は私の尊敬する上司、凄腕のゲームクリエイターだった堀口裕信(ほりぐちひろのぶ)さんだ。懐かしい、この頃はまだ現役だったよなぁ……』


 ソウイチロウさんはまるで泣き出しそうな声を出している。

 この人はソウイチロウさんにとって、とても大事な人だったのだろう。


 それを見ていた大魔女エントラ様が何かを感じたらしい。


『この男……何か同じ物を感じるねェ』

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