513 招かれざる来客
邪凱装パンデモニウムの武具が全て砕け散った。
「ガアアオオ……オオォゥ……」
ドサッ。
全身を覆っていた武具が全て砕け散ったパンデモニウムは、その場にゆっくりと巨体を傾けながら前のめりに倒れ込んだ。
「ご主人様ぁー!」
結界の外に血相を変えて飛び出したのは召使いの少女だった。
この魔力による結界は、外敵の侵入は許さないが内部から外に出るのは容易なのか。
「ゥウ……アタシも、もう限界だねェ……」
どうやら違ったようだ。
結界を張っていた大魔女エントラ様の力が尽きたので、結界も消滅したらしい。
少女は瓦礫を踏み越え、足を傷だらけにしながらパンデモニウムの元に駆け寄った。
「ご主人様! ご主人様ぁー‼」
「…………」
だが返事は無かった。
パンデモニウムの肉体は既に死んでいる。
その身体を呪いの武具が操っていただけだ。
召使いの少女は悲痛な叫び声で返事の無い主人に呼びかけ続けている。
ボク達はなんともやるせない思いだった。
後味の悪い勝利。
今の状況はそんなところなのだろうか。
「許さない……私はお前達を……絶対に許さない」
召使いの少女の目に錨と憎しみが宿る。
しかし非力な彼女にはボク達と戦う力なんて全く無い。
それもやるせない理由の一つだ。
しかしあの召使いの少女をそのままにしておくわけにもいかない。
そうボクが考えていた時、耳をつんざく笑い声が聞こえてきた。
「アッハハハハハハァ! あれだけの数がいて全滅って、無様すぎるだろォ!」
薄闇色のフードを被った男。
アレは、見覚えがある!
『ユカ! 気をつけろ。アイツはバグスだ』
『わかってます! 時渡りの神殿でアイツを見ました!』
ボク達の目の前に現れたのは、バグスと呼ばれる薄闇色のフードを被った男だった。
「魔族が人間を殲滅する計画を立てていたのに、またまたまたキミ達が邪魔してくれたってワケかァ! 毎度毎度邪魔ばかりしやがってェ!」
バグスは普段のおどけた感じではなく、かなり怒りが頂点に達していた。
「あ、アレは……クソッ、魔力が足りなくて動けない。こんな時に無様だねェ」
「エントラ様、私の力を受け取ってください」
エリアさんが手を握ったことで大魔女エントラ様に少しの魔力が移った。
「エリアちゃん。ありがとうねェ、コレで少しは動けるようになったかねェ」
杖にすがるような形で大魔女エントラ様が立ち上がった。
「ユカに手出しはさせないからねェ!」
「おっと、危ないなァ」
バグスは大魔女エントラ様の魔法を難なく避けた。
「さて、計画がメチャクチャになってしまったみたいだけどォ、ここでキミ達を全員全滅させれば後々つじつま合わせは出来るからねェ。途中経過より結果だよォ」
バグスが笑いながらコインか何かを指で弾いた。
『!』
『ソウイチロウさん、何かあったんですか?』
『いや、大したことではないんだが、久々に聞いた言葉が気になった』
久々に聞いた言葉?
『ソウイチロウさん、それは一体?』
『途中経過より結果。コレは私が尊敬している人が言っていた口癖なんだ』
『それって、どういうことですか?』
『いや、偶然だろう。久々に聞いたのでビックリしただけだ』
何だか頭にスッキリしないものが残ってしまった。
しかし今はそんなことを考えている場合ではない。
「今度こそ、この城と共に地の底に沈んでしまいなァ!」
バグスの投げたコインはどこかに姿を消し、そのすぐ後に牙城は音を立てて崩壊を始めた。
「何じゃこれは! ううむ、奇怪なことが起こったもんじゃ」
「うかうかしていると瓦礫の下敷きになってペチャンコだねェ!」
幸い武士団や騎士団といった人達は全員牙城の外に退避済みだ。
今ここに残っているのはボク達とあの召使いの少女だけだ。
ボク達だけを逃がすならワープ床で座標を合わせれば逃げる事は可能なはず。
しかし、あの召使いの少女は頑なにパンデモニウムの傍を離れようとしない。
このままでは助けたくても助ける事ができない……さあ、どうすれば良いんだ!




