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512 競り勝つのはどちらだ?

 目が回る。

 はっきり言って気分が悪いというレベルではない。

 少し気を抜ければ倒れてしまいそうだ。


 それでもやめるわけにはいかない。

 この回転床に合わせた動きは、邪凱装パンデモニウムを倒すために必要なんだ。


『ユカ、大丈夫か? もし気を失いそうなら私が代ろうか?』

『ソウイチロウさん、大丈夫です。ボクはやりとげます』

『そうか、だが無理はするなよ』


 ソウイチロウさんがボクを励ましてくれている。


『しかしユカがこの方法に気が付くとは驚きだ。ユカ、今少しだけ話を聞けるか?』

『動きながらで良ければ少しくらいなら』

『わかった、手短に話す』


 この一瞬も気を抜けないタイミングでする話だ、今どうしても必要な話なのだろう。


『ユカ、私が元々住んでいた場所では年に数回台風という凄い竜巻のようなものが襲ってきた、その力は大木ですら簡単にへし折るほどだ。だが、それよりはるかに細い柳という木はそれに耐えた、なんでだと思う?』

『それって、今のこの状況に必要な話ですか⁉ ボクには分からないです!』

『ああ、必要なヒントだ。柳というのはしなやかに動くことで強い力を受け流して跳ね返す木なんだ。この話を今の状況に当てはめてみればいい』


 今の状況……。

 台風という凄い竜巻、パンデモニウムの超回転攻撃……そういうことか!


「ボクの足元の回転床を別方向にチェンジ!」


 ボクの魔力はまだまだ残っている。

 回転床の方向を変えるのは容易に可能だ。


 ボクはソウイチロウさんのヒントで気が付いた。

 つまり、台風をしのぐ柳の木のようにボクはアイツの攻撃に逆らわずにその方向に動けばいい。

 そして動くことで溜めたエネルギーをアイツに目掛けて一気に斬りつける。


 これがあの超回転攻撃に打ち勝つ方法だったのだ!


「ガギャガギャアアァオオオウ!」


 邪凱装パンデモニウムが奇声を発しながら超高速回転でボクに襲いかかる!

 この動きに逆らわず、回転床の方向を合わせ続ければいい。

 今は高速の右回転になっている。それなら回転床も今の向きのままでいいはずだ。


 ボクは遺跡の剣(エクスキサーチ)を横に構え、邪凱装パンデモニウムの回転攻撃を受け流した。


「今だ!」


 ズザシュ! ザシュ!ザシュ! スバッ!


 回転すればするほど邪凱装パンデモニウムにダメージが跳ね返る。

 だが一瞬でも気を抜けば、今まで与え続けているダメージが一気にボクに襲いかかる。


 これは気迫と気迫の競り合いだ。

 ボクはひたすらに回転を続け、邪凱装パンデモニウムの回転が止まるまで攻撃をしのぎ続けることにした。


 いくらあの怪物とはいえ、これだけの高速回転をずっと続けるのは体力が持つまい。

 その上アイツを動かしている呪いの武具はもう既に一本だけにまで減っていて、自己再生も不可能だ。

 アイツの回転が終わるまでボクが堪え切れれば勝ちだ、しかし剣を握る腕が痺れてきた。


 回転はどんどん減速しているとはいえ、まだまだ普通の人には回転の内側が見えないほどのスピードだ。

 あと数分は続くだろう。


 どちらの方が先に体力が尽きるかの回転対決だったが、運の悪いことにボクの体力の方が先に尽きてしまった。


「しまった!」

「グガアアア!」


 回転のエネルギーが一気にボクに襲いかかる。

 ダメだ! もう身体が持たない……。


 そうボクが考えてしまった時!


「レザレクション!」

「!」


 ボクの身体が軽い。

 今なら体勢を立て直せる。

 ボクは剣を深く握り直し、再度剣を横に構え直した。


「ガアァアアアァ……ア……ァァ」


 邪凱装パンデモニウムの回転がどんどん遅くなっていく。

 どうやらアイツも体力が限界を超してしまったようだ。


 それに対してボクはまだ回転を続けている、そのため回転の風圧とエネルギーといったものがボクに味方した。


「やった! 行くぞォォォ!」


 ズバッ!! ザンッ!!!


「ギャアアアアオウウゥゥゥ」


 断末魔の叫びが響く。

 そして、ダメージの限界に達していた邪凱装パンデモニウムの最後の剣が砕け散った。

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