511 回転VS回転
「マイダスハンド」
上級魔法の中でも使い手はほんのわずか、いや、使い手がいない伝説の魔法と言われるレベルの最高位魔法。
触れたものを全て黄金に変えることのできる手を、意図した相手に付与する魔法だ。
おとぎ話で強欲な王を諫めるために魔法使いが与え、その後王が何も食べられなくなり本当に大事なものは黄金ではないと知らしめる魔法だった。
しかし、大魔女エントラ様はその伝説の最高位魔法を使い、邪凱装パンデモニウムの武器を無効化してしまった。
いや、武器だけでなくその手が触れていた防具の部分も全部が黄金に変化している。
黄金は攻撃力も守備力もかなり低い金属だ。
黄金に変化した邪凱装パンデモニウムの腕はボクの持つ遺跡の剣でいとも簡単に断ち切れた。
「グギャガァァァアアッ!」
腕を斬られた邪凱装パンデモニウムは、再生もできずその場でもがいている。
これでアイツの武器は残り一本だけになった。
「ユカ、後はアンタに任せるからねェ」
大魔女エントラ様が肩で息をしている。
それほど強大な魔法を使っていたということなのか。
「ほら、アンタもさっさと逃げるんだねェ。もうアタシの魔法で庇ってあげるだけの力残ってないんだよねェ」
「……」
なんということだ、大魔女エントラ様はあの激戦の中でパンデモニウムの召使いの少女を魔法で傷つかないようにしてあげていたのか。
「嫌……です、誰が、人間達のいうことなんか……」
「聞き分けの無い娘だねェ」
大魔女エントラ様が力無く杖を掲げた。
「アンタはそこにいるんだねェ」
「な? 何を……ひどい! 戻してよっ!」
大魔女エントラ様は召使いの少女をコロシアム跡地の外れた場所、エリアさんのいる辺りに瞬間移動させた。
「ユカ、ぼーっとしている時間は無いからねェ! さっさと勝負をつけるんだねェ!」
「は、はい! わかりましたっ」
ボクは剣を構え、邪凱装パンデモニウムの前に躍り出た。
「グググァガァアアッ」
邪凱装パンデモニウムはもう一本しか武器を持っていない。
四本あった腕も残っているのは最後の一本だけだ。
そして攻撃方法を失った邪凱装パンデモニウムは最後の手段に出た。
「グァァアアアオオオオゥウウッッ‼」
なんと、邪凱装パンデモニウムは一本の武器を中心に、身体を超高速回転させ始めた。
「まずいっ! アイツに暴れさせたら……残った魔力は……まあ出来るのはこれくらいかねェ!」
大魔女エントラ様が杖にすがりつくような形で魔法を発動した。
「束縛結界魔法!」
しかし魔力が足りず、束縛は簡単に回転によって砕かれた。
不幸中の幸いか、結界魔法は小さな結界を作るだけのことができたので、邪凱装パンデモニウムが結界の外に出て暴れることは出来ない。
今ここにいるのはボクと邪凱装パンデモニウムだけだ。
このままではあの回転に切り刻まれてボクの身体も持たない。
どうにかこの状況を打破するには……。
あの回転を無効化する方法を考えないと。
渦を作ってその中にいるのも考えたが、それではアイツの攻撃を避けることは出来ない。
あの回転に対抗するには……こちらも回転しなくては!
ボクは賭けに出てみた。
「ボクの足元の地面を回転床の罠にチェンジ!」
回転床、それはダンジョンのトラップにある踏んだら別の方向に回転される床のことだ。
それそのものには殺傷力は無いが、落とし穴や側面の槍壁等と合わせると途端に物凄いトラップになる。
ボクが足元にマップチェンジで作ったのは四つの回転床だ。
これを踏み続ける限り自動で高速回転させられることになる。
この回転をあの邪凱装パンデモニウムの攻撃の向きに合わせれば、攻撃を無効化しつつカウンターで反撃できるはずだ!
「行くぞぉォォォオッ!」
ボクは剣を構え、回転床に足を踏み込んだ。




