510 魔法と頭は使いよう
大魔女エントラ様は杖をくるりと回し、詠唱を始めた。
「本来なら大魔法で一気に片付けた方が楽なんだけどねェ。あまりに強力な魔法を使ってしまうとこの場所が吹っ飛んでしまうからねェ」
大魔女エントラ様は苦笑いをしながら杖に指を沿わせた。
「だから今回は攻撃魔法を使わずにあの剣を破壊してあげようかねェ!」
ソウイチロウさんの言っていた面白いものとはこれのことなのだろうか。
大魔女エントラ様は一体何をしようとしているのだろうか?
「さて、それじゃあ始めるとするかねェ」
「ギャボォォォオオ!」
大魔女エントラ様が邪凱装パンデモニウムの上空に舞い上がった。
そして詠唱して溜めていた魔力を一気に邪凱装パンデモニウムに解き放つ!
「ホーリーエンチャント!」
え??
なぜ聖属性の付与魔法を敵に使うのだろうか。
大魔女エントラ様には考えがあるのだろうけど、このバフが何を意味するのかがボクには分からない。
聖属性を付与された邪凱装パンデモニウムの剛剣が聖なる光で包まれた。
この魔法は実体の無い悪霊や魔族を剣で倒せるように聖剣と同じ属性を付与する魔法だ。
聖なる光で邪凱装パンデモニウムの剛剣が白く光り輝いている。
あの剣で攻撃されたら、聖属性に耐性のある人間のボク達でも致命傷だ。
だが、異変はその後起きた。
「ギャギャギャァアアアアムッ!」
聖なる属性を付与されたはずの邪凱装パンデモニウムの剛剣が白と黒の点滅を始めたのだ。
一体何が起きたのか!?
「やはり思った通りだねェ。呪いの武具、その呪いの根本が邪悪なる力なら、聖なる属性を付与すればどうなるかと思ったけど……ここまで効果があるとはねェ」
ボクは邪凱装パンデモニウムの剛剣を見てみた。
すると、白と黒の点滅が収まった剛剣は、何の力も感じないただの鈍らな金属の剣にしか見えなかった。
「さて、闇の力を失ったところで、一気にやっちゃおうかねェ!」
大魔女エントラ様は次に魔法で妙な色の霧を巻き起こした。
「本来だと目くらましの霧の魔法なんだけどねェ、これに強酸を少し仕込めば……こうなるんだよねェ」
邪凱装パンデモニウムが狼狽えている。
その手に握った剛剣は少しずつ腐食し、ボロボロになっている。
「さて、次は時間の跳躍かねェ」
大魔女エントラ様の魔法は腐食した剛剣をさらに錆の塊に変えてしまった。
「ここまでなればもう武器としても使い物にならないねェ」
「ゴガァアアア!」
邪凱装パンデモニウムが半狂乱で武器を振りまわす。
だがその剣は振るえば振るう程どんどん刃がこぼれ、刀身がボロボロになっていく。
もはやアイツの握っているモノは剛剣ではなくただの錆の塊の巨大な金属の棒だ。
だがそれでも本来のパンデモニウムの力なのだろうか、金属の棒は容易く地面を抉り、壁に風穴を空ける。
「こりゃぁ完全に無効化するしかないねェ」
空中に浮いたままの大魔女エントラ様が邪凱装パンデモニウムの剛剣目掛けて魔法を放った。
「マイダスハンド!」
大魔女エントラ様の不思議な魔法は邪凱装パンデモニウムの手を金色に変えた。
「皆、下がるんだねェ、あの手に触れたらおしまいだよ!」
大魔女エントラ様が叫んだ。
何が起きるのかはわからない、でもあの手に触れるとオシマイと言われたら、とてもじゃないが触る気にはなれない。
そしてその意味が分かったのはそのすぐ後のことだった。
「ガがッ⁉」
邪凱装パンデモニウムは不可思議な現象に戸惑っている。
なんと、アイツの握っていた剛剣だったものが金色の塊に……いや、黄金に変化したのだ。
「ユカ! あの手を切り落とすんだねェ!」
「わかりましたっ! でやぁあああ!」
ボクはエントラ様の指示通り黄金の塊ごと遺跡の剣で邪凱装パンデモニウムの腕を切り落とした。




