504 邪凱装パンデモニウム
異形の戦士の姿になった魔戦士パンデモニウムは、既に自我を保っていなかった。
「オオオオオォォ……グァアアア」
不気味な鎧や剣と一体化した魔戦士パンデモニウム。
その姿は元々の魔族の戦士の姿の上に薄い黒い金属がまとわりつくような形で肉体とも金属ともつかない硬質な物質に覆われたものだった。
「お兄様、ああいった怪物は魔法で攻撃すれば大ダメージを与えられるはずですわっ!」
ルームさんが杖を高く掲げて魔法を唱える。
「トォォール・ハンマァアアッッ!」
金属は雷に弱い。
強大な魔力でルームさんの放った極大雷撃魔法トールハンマーは魔戦士パンデモニウムの巨体を脳天から貫いた。
「やりましたわっ!」
「待て、ルーム。様子がおかしい!」
ルームさんの魔法の直撃を喰らったはずの魔戦士パンデモニウムだったが、少し沈黙しただけですぐに動き出した。
「何ですの!? 雷の魔法が効かなかったというのですの?」
「グガァアアアッ!」
魔戦士パンデモニウム、いや、あれはもっと別のバケモノだ。
アレに名前を付けるとするなら、邪悪な武器、鎧を装備したパンデモニウム……いや、これでは名前が長くて呼びにくい。
『ユカ、アレに名前を付けるとすれば、邪凱装パンデモニウム……といったところか』
ソウイチロウさんはそういった名前を付けるセンスなどにも秀でているようだ。
邪凱装パンデモニウム。
まさに今のあの怪物を示す名前と言えるだろう。
邪凱装パンデモニウムは四本の剣を使い、ルームさんに斬りかかった。
魔法の盾でその攻撃をしのいでいたルームさんだったが、邪凱装パンデモニウムの剣はその盾をいとも容易く砕く。
「キャアアアッ!」
「ルーム、僕にまかせろ!」
ホームさんは聖剣に自らのエネルギーを流し込み、虹色に輝く刀身を聖剣の外側に作り上げた。
「これは僕の魂の剣、オーラソードだ! この剣でお前を砕いてやるっ!」
「グオゴガァアアアッ!」
ホームさんの剣は確実に邪凱装パンデモニウムの身体を切り裂いている。
だが、その傷は致命傷にはならなかった。
「何故だ! 踏み込みが甘いわけでもないのに」
「ゲゲガガガガガッ」
けたたましく笑う邪凱装パンデモニウムの胴体を、ホームさんのオーラソードが切り裂いた。
「やった! 手応えあった」
クリティカルヒットを叩き込み、喜んだホームさんだったが……それはぬか喜びに終わった。
「な、何だと⁉」
内臓が見えるほどの傷を胴体に受けた邪凱装パンデモニウムだったが、その傷は瞬時に再生している。
それも傷を受けた場所がすぐにわからなくなるレベルだった。
「グエゲゲゲゲ……」
邪凱装パンデモニウムは、魔戦士パンデモニウムの肉体ではあるが、その意志や自我は既に存在していない。
アレは邪悪な武器が肉体を操り人形にして動かしているようなものだ。
つまりはあれはもう魔戦士パンデモニウムの身体を邪悪な武器が操っているだけのモンスターに過ぎない。
なので痛みも感じなければ、恐怖も無い。
死体を武具が操り人形にしている様なものだ。
「再生能力があるなら、それ以上の魔法で焼き払って差し上げますわっ! プロミネンス・ノヴァ!」
ルームさんの魔法が邪凱装パンデモニウムの全身を包み込む!
灼熱の火柱が怪物を瞬時に焼き尽くした……はずだった!
「何ですの! あの怪物……」
「ギャギャギャギャッ!」
炎の中から現れたのは、全身が丸焦げながらもその度に瞬時に再生する邪凱装パンデモニウム。
それは炎の中に立ち尽くす悪鬼のような姿だった。
一体どうすればこの再生能力の塊のような怪物を倒せるのだろうか。
どう考えてもホームさんとルームさんの二人だけで倒せるような相手ではない。
ここからは一騎打ち等ではない総力戦で戦わないと。
ボクは思わず邪凱装パンデモニウムのいる方に走り出した。




