503 血を啜る武具
魔戦士パンデモニウムは全身の骨が砕け、四本の腕全てが使い物にならなくなった。
魔族と人間の対決は、ホームさんの勝利に終わったのだ。
「グハァ……見事だ。よくぞ……オレを倒した。オレの最後の敵が……お前だったことをオレは誇りに思う……」
ドサッ!
魔戦士パンデモニウムはその巨体を横たえ、立ち上がれなかった。
その全身から流れ出たおびただしい流血は、辺りを血の海に染め上げる。
彼を見守っていたはずの魔族の部下達は、全員が先程の超必殺技に巻き込まれてしまい、生き残っている者は誰一人いない。
魔族と人間の決戦は、人間側の勝利で幕を閉じたのだ。
「頼む……ホーム……殿」
「何だ? 誇り高き魔戦士、パンデモニウム」
「オレを介錯してくれ。オレはお前の手にかかって死にたい。これだけの相手と生涯最後に戦えたことを誇りとしてオレに終止符を打ってくれ」
ホームさんは何か少し考えていたが、その後うなずいた。
「わかった。誇り高き魔戦士パンデモニウムよ。僕がお前に引導を渡してやる」
「感謝……する……」
そしてホームさんが聖剣魂の救済者を構えた時、後方から大きな声が聞こえた。
「やめてください!」
「?」
ホームさんが後方を振り向くと、そこにいたのは魔戦士パンデモニウムの召使いだった人間の少女が肩を震わせて立っていた。
「これ以上ご主人様を……傷つけないで下さい」
「お前……オレの最後に泥を塗る気……なの……か」
「違います! 私はご主人様に生きて欲しい。そのためにもし生贄が必要なら私の命をご主人様に捧げます!」
「何を言う……か。バカな……真似は……よ……せ……」
「嫌です!」
制止する魔戦士パンデモニウムの言葉に逆らい、召使いの少女は横たわった魔戦士パンデモニウムの傍に走った。
魔戦士パンデモニウムの血は辺りを染め上げ、少女は血のぬかるみの中をかきわけて歩いている。
そしてついに彼女は主人である魔戦士パンデモニウムの傍に辿り着いた。
だがその時異変は起きた!
「ゲゲゲゲギャアアアアア」
「ク―ッキャッキャッキャ」
「シャゲゲゲゲギャヴァー‼」
謎の奇声が聞こえる。
声の聞こえたのは誰もいない地面からだった。
一体何者の声なのだろうか?
ボク達が声の聞こえた方を見ると、そこには謎の奇声を発する不気味な武具の姿があった。
「何だこれは⁉」
辺りの血の海は何故かほとんど見当たらない。
まるで何かがその血を吸い取ったような状態だ。
ズゾゾゾ……ジュルジュル……。
辺りから不快な音が聞こえた。
その音はまるで何かの液体を啜っているような音だ。
そしてボク達はおぞましいものを見てしまった。
そこにあったのは、血を啜り、蠢く、不気味な目玉のついた四つの武具だった。
この剛剣と蛮刀は魔戦士パンデモニウムの持っていた武具だ。
その武具が流れ出た魔戦士パンデモニウムの血を吸い、命を手に入れたかのように蠢き出したのだ。
「ギェゲゲエエエ、ケッケケケケ……」
「シギャァー、ギャゲェェェェ」
謎の奇声を上げた武具は空中に舞い上がり、魔戦士パンデモニウムの手にひとりでに戻った。
「お前、離れ……ロ!」
「ご主人様? キャアァッ!」
魔戦士パンデモニウムは横たわったまま、最後に残った力で召使いの少女を突き飛ばした。
その直後、魔戦士パンデモニウムに不思議なことが起こった。
彼の手に戻った武具は、その刀身や柄から何本もの管や針が伸び、魔戦士パンデモニウムの身体を貫いた。
そして、その武具は薄皮を広げるようになり、魔戦士パンデモニウムを包み込むように癒着し、一体化した。
「グガァァァッァッッ!」
なんということだ。
魔戦士パンデモニウムは、その全身にまとわりついた武具に身体を操られるように再度立ち上がった。
その姿はまさに異形の戦士というにふさわしい風貌になっていた。




