501 渾身の一撃
魔戦士パンデモニウムの一撃は、ホームさんの身体を貫いた。
常人なら即死の一撃である。
「お兄様!」
飾穴の開いたホームさんの身体をルームさんが抱きかかえた。
「くっ……」
「お兄様、喋らないで。今傷を治します……っ」
ルームさんは風穴を空けられたホームさんの身体を魔法で治癒している。
その魔力は相当の物だ。
今のルームさんは魔法使いとしては大魔女エントラ様に匹敵するほどの世界最強クラス。
神レベルのエリアさんとまではいかなくても致死レベルのダメージも回復できるほどの魔力だ。
この魔力ならものの数分で傷は感知できる。
だが、魔戦士パンデモニウムはそれほどの時間を与えてはくれない。
「回復する時間は与えぬ!」
魔戦士パンデモニウムは右手の剣を回転させながら前面に鋭い突攻撃を連続で繰り出してきている。
今はかろうじて魔法の光の盾のおかげでダメージは受けていないが、あと数回も直撃を受ければ魔法の光の盾は粉々に砕けてしまう。
「ほらほら、もう盾は砕けるぞ、そうすればオレの渾身の一撃を打ち込んでやる」
「ルーム……もういい。これだけ回復できれば、最低限動ける」
「お兄様……わかりました」
ルームさんはホームさんの指示で回復魔法を止めた。
そして魔法で光の盾を張り直そうとしている。
「無駄だ、一度砕いた勢いはそのままその盾も作らせぬ!」
「プロテクト・ウォール!」
ルームさんは魔戦士パンデモニウムの忠告を無視し、光の盾を張った。
その直後、その前に張った光の盾が魔戦士パンデモニウムによって砕かれた。
そのタイミングはほぼ同時である。
「無駄だったな、二人そろって串刺しにしてやろうっ」
「かかりましたわねっ!」
「何だと⁉」
魔戦士パンデモニウムに砕かれた光の盾は粉々になるとと同時に、新たに張った光の盾に融合した。
「光の盾はオトリ、砕いてくれて感謝致しますわ!」
「何? どういうことだ⁉」
ルームさんが杖を斜めに掲げると、光の盾は前方に折りたたまれ、巨大な光の槍の形に変わった。
「お兄様、後は頼みますわ!」
「ルーム、わかった。僕に任せろっ!」
巨大な光の槍はホームさんの聖剣にかぶさるような形になり、光の巨大な槍となってホームさんの前方に突き出された。
「行くぞ、パンデモニウムッ!」
ホームさんは巨大な槍を構えるようにポーズを取った。
「お兄様、行きますわっ。エアリアル……バースト!」
ルームさんの極限まで研ぎ澄まされた風の魔法がホームさんを巻き込み、一瞬で魔戦士パンデモニウムに向かって撃ち出された。
巨大な光の槍を構えたホームさんが高速でパンデモニウムの身体に激突した。
「グガァアアアッッ!」
全ての力を込められた一撃は魔戦士パンデモニウムの鎧を砕き、持っていた剣はい本の右腕ごと吹き飛んだ。
「やったっ!」
「お兄様、流石ですわ」
勢いよく吹き飛ばされた魔戦士パンデモニウムははるか後方の牙城の監視塔に激突した。
ゴシャアアン!
激しく吹き飛ばされた魔戦士パンデモニウムの巨体は監視塔の側面に巨大な風穴を空けた。
崩れた壁面が瓦礫として魔戦士パンデモニウムに降り注ぐ。
だが、魔戦士パンデモニウムは瓦礫を押しのけて立ち上がった。
「ク、ククククク。このオレがこれほどの痛みを与えられるとはな……長く生きてきたが初めてのことだ……」
「パンデモニウム! お前はもう戦う力はないはずだ。もういいだろう」
「そうはいかぬ、魔族の戦士として……オレは負けるわけにはいかんのだ!」
そう言うと、魔戦士パンデモニウムは身体を大きく傾けた。
「まさかオレの最大の大技を見せるとこになるとはな!」
それは不思議な光景だった。
魔戦士パンデモニウムは自らの身体を高速で回転させ始めた。
その回転はすさまじく、身体がまるで見えない。
しかしなぜか不思議なことにその頭部だけはそのままこちらを向いている。
「さあ、行くぞ……喰らえ、オレの全身全霊の渾身の一撃を!」
魔戦士パンデモニウムは自らの命をエネルギーとし、最後の攻撃に全てを駆けた。




