497 魔族のプライド、人間のプライド
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ボク達は魔将軍パンデモニウムの牙城を突き進む。
もう既に牙城の中の増援はいない。
何故なら魔界から無尽蔵に湧き出てきていた魔族の大軍は、大魔女エントラ様の力でその入り口だった異界門を閉じられたからだ。
あれだけ数万にも及んだ魔族の大軍団は、今やこのパンデモニウムの牙城に残る千少しといったところまで激減している。
それに対してボク達人間側の軍勢は負傷者こそいれど、死者は誰も出ていない。
これは間違いなくエリアさんの力のおかげだった。
ボク達は多少の負傷兵を除き、ほぼ全員でこの牙城に乗りこんだ。
ミクニの武士団にグランド帝国の騎士団と国境警備隊、それに冒険者ギルドと元海賊団。
この世界でも有数の軍勢が今結集している。
この中でも主力として戦っているのはボク、ホームさん、ルームさん、カイリさんにマイルさんの兄妹、ミクニの国王兄妹にゴーティ伯爵やラガハース騎士団長、ボクの父さんや兄さん、冒険野郎Aチーム。
中でも群を抜いて凄いのは大魔女エントラ様と龍神のアンさんだと言える。
ボク達の軍勢は魔族の残党を次々と打ち倒し、残る敵はほんのわずかになった。
魔将軍はゲート、アビスが姿を消し、今残っているのはパンデモニウムただ一人だ。
ボク達は魔族の牙城を制圧しつつ、城の上部に駆け上っていった。
もう勝利は目前だとも言える。
数万いた魔族の大軍も強敵と言えるのは今や魔将軍パンデモニウムを残すのみだ。
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「そうか、アイツも敗れたか……」
「パンデモニウム様、ここはもう持ちません! 我々が死守しますのでどうか生き延びて再起を……」
「いや、それには及ばぬ。お前達こそ某のことよりも自らの命を考えるがいい。某は敗軍の将として最後の戦いに挑む」
魔将軍パンデモニウムはこの戦いで負けることはもう避けられないと理解している。
その上で部下に生きろと言ったのだ。
「いいえ、我ら誇り高き魔族として人間どもの軍門には下りません! 最後の一兵になるまでパンデモニウム様と共に戦います!」
「そうか、それではお前達……地獄までついて来るが良い!」
魔将軍パンデモニウムは部下に命じ、最後まで戦うことを決意した。
「ご主人様……」
「お前か……どうやらお前に名前を付けてやるという約束は果たせそうにない。お前はこの牙城でただ一人の人間だ。魔族にさらわれたとして人間に保護してもらえ。非力なお前なら人間も助けてくれるだろう」
「嫌です! 私は人間であることより、ご主人様の傍にいたいのです」
「ならぬ! お前は所詮人間だっ!!」
魔将軍パンデモニウムは召使の少女に叫んだ。
「もういい、お前はここを去れ。もし残るなら……お前を、殺す!」
「いいえ、私の居場所はここです。死んでもここを離れることはありません!」
「そうか……」
魔将軍パンデモニウムは召使の少女に手を伸ばし、持ち上げるとその身体を抱きしめた。
「温かい。お前の存在は戦いに生きるだけだった某……いや、オレに温もりを与えてくれた。お前はオレのものだ」
「ご主人様……」
魔将軍パンデモニウム、彼は魔将軍と呼ばれる武人としての姿を捨て、一人の戦士に戻った。
「オレは戦い抜いて見せる。数千の人間ごとき、オレが本気を出せば蹴散らすことができる! そして……オレはお前のためにここに戻ってくる」
魔将軍パンデモニウムはプライドをかけて戦いに挑むことを決めた。
ドォン!!
「誰だ!」
「僕は『ゴーティ・フォッシーナ・レジデンス伯爵』の息子……、いや、フランベルジュ領領主代行、ホーム、レジデンスだ!」
魔将軍パンデモニウムの前に姿を現したのは、聖剣を握ったホーム・レジデンスだった。
「来い、人間の騎士よ。オレの全力をもって叩き潰してやる! オレの名前は魔将軍パンデモニウムだ!」
「行くぞ、魔将軍パンデモニウム!」
そして魔族と人間のプライドをかけた戦いの火ぶたが切られた。




