495 救世主として
◆◇◆
……ン、一体ボクはどうしていたのだろうか?
確か、あの魔将軍アビスに魔法で眠らされて、それから後の記憶が無い。
『ユカ、気が付いたようだな』
『ソウイチロウさん、何があったんですか?』
『なーに、ちょっとユカの身体を使って本気で戦わせてもらっただけだ』
『何ですかそれ! 本気って……魔族の大軍とですか!?』
ソウイチロウさんがさらっととんでもない事を言っている。
魔族の大軍と本気で戦ったという話だ。
『でも、他にもみんな戦ってたんですよね、まさか一人で戦ったなんて……』
『仕方ないだろう、全員寝てしまったんだから、私一人で戦ったぞ』
信じられない。
いくらソウイチロウさんが凄い経験者だと言っても、一人だけで魔族の大軍を倒したなんて。
『ソウイチロウさん、魔族の大軍って、一人でどれだけ倒したんですか?』
『そうだな、数は数えてはいなかったが、大まかに見て増援を入れれば……四万ってとこかな』
『四万!!!!!!?』
想像以上の数字にボクは気を失いそうになった。
『オイ、ユカ。大丈夫か? しっかりしろ!』
『そりゃあビックリしますよ。四万の魔族の大軍を一人で倒したなんて……』
『マップチェンジスキルと無尽蔵に近いMP、これが有ったから勝てたんだろうな』
いや、それだけでは絶対に勝てない。
もし仮にボクが寝ていなかったとしても、ソウイチロウさんじゃなくてボクが戦っていたらそんな大軍と戦って勝てた保証はない。
やはり、ソウイチロウさんは凄い能力の持ち主だ。
『ユカ、そろそろみんな目を覚ますぞ、一旦身体はお前に返すからな』
そういうとソウイチロウさんはボクの頭の中に引っ込んだ。
ボクは少しぎこちなかったが、身体を自在に動かせるように戻った。
「う……ここは?」
「どうやら私達は魔将軍アビスに眠らされたようですね」
「不覚、このような無様な姿を見せるとは……」
ゴーティ伯爵やミクニ・リョウカイ様、他にも魔将軍アビスに眠らされていた人達が次々と目を覚ました。
「何だこれは!」
「ユカ様があんな所にいるぞっ!!」
「見ろ、ユカ様が一人であのモンスターの大軍を倒したんだ!」
そういえば、今ボクが立っているのは数万のモンスターの大軍の死体の中心だった。
どうやらみんなの中ではボクが数万のモンスターの大軍をたった一人で倒したという話になっているらしい。
もし違うと言っても誰も信じないだろう。
それならボクは救世主になってみんなの士気を高めよう。
「魔族の大軍はボクが倒した! さあ、みんな……一気に残りのモンスターを倒そう!」
「「「オオオー!!」」」
起き上がった兵士達、騎士達、武士達全ての心が一つになった。
ボク達はみんなの明日のために戦っているのだ。
ボク達、人間側の軍勢は全員が一丸になってパンデモニウムの牙城に攻め込んだ。
◆
「パンデモニウム様、人間達がやってきます!」
「そうか、こちらの戦力はどれ程残っている?」
「それが……魔将軍アビス様も魔将軍ゲート様も姿が見えず、主だったモンスターや魔族は大半が討ち死にしました。今残っているのはせいぜい……二千といったところです」
「そうか、あれほどの大軍が残り二千か……。だが某がいる限りこの牙城は落とさせはしない!」
魔将軍パンデモニウムは、傍にいた召使いの少女の頭を撫でた。
「安心するがよい、お前は某が守る。戦いが終わり戻ってきたら、お前に名前をやろう」
「ご主人様……」
魔将軍パンデモニウムは落ちていた蛮刀と剛剣を握り、叫んだ。
「某の名は魔将軍パンデモニウム! 人間共よ、某がいる限り、この牙城は落とさせはせぬぞっ! グオオオオオォォォー‼」
その凄まじい雄たけびは、牙城に突入した人間達全ての耳に響いた。




