493 兄の帰還
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「お前は! ゲート……何故、ここにいる!?」
「お前達に答える必要は……ない!」
ゲートはアポカリプス一族の会合にいきなり姿を現した。
「何故だ!? 異界に追放されたお前がこの場に戻れることなぞ、あり得ない」
「世界に絶対は存在しない。俺は異界で新たな力を手に入れた。その力でこの世界に戻ってきた」
「それならば再度異界に追放するまでだ!」
「出来るものならやってみるがいい!」
「この世界から消滅させてやる!」
「それは……せめて命だけは助けてあげてください」
「エントラ様、なりませぬ。この者は禁忌を犯した者。命を以てしか償うことは出来ませぬ。」
「ほう、エントラ。随分と偉くなったものだな」
「兄様……」
エントラは兄であるゲートの帰還を待ち望んでいた。
彼は天才。
いくら異界に追放されようとも、自らの力できっと戻って来てくれると信じていたからだ。
しかし、帰還したゲートは彼女の知る兄とはかけ離れたものだった。
「プロミネンスフレア!」
ゲートは指先一つで魔法を編み出し、アポカリプス一族の者たちの作り出した魔法を一瞬でかき消した。
「異界門を守る一族と言っても、所詮この程度の力だったか。爆ぜよ!」
ゲートのプロミネンスフレアは攻撃を仕掛けてきたアポカリプス一族の魔導士を一瞬で焼失させた。
「なんとあっけない。もう少し俺を楽しませてくれよ!」
笑いながら魔導士を返り討ちにするゲート。
そこにはかつての弱い人達のために努力して魔法を極めようという青年の姿はどこにもなかった。
ゲートは一体異界でどんな経験をしたのだろうか。
だが一つ言えることは、彼は優しさを失う程過酷で苛烈な環境を生き抜き、絶大な力を手に入れたということだ。
「決めた。お前達には存在価値は無い。俺が淘汰する!」
ゲートはそう言うと体のエネルギーを集める。
すると、今まで人間と同じ姿だったゲートは、青い肌に角の生えた姿に変化した。
その姿は、魔族と呼ばれる者達と同じような姿だった。
「悪魔……ゲート、お前は悪魔に魂を売ったのか!?」
「悪魔? 違うな……これは異界のDNA改造という技術だ。人間を更なる力で進化させる力。それがお前達の言う悪魔や魔族だというなら、この技術で作り出されたものが異界からこの世界に迷い込んだのかもしれないがな!」
ゲートは悪魔のような姿になり、魔力を放った。
その力は人間の姿だった時の数十倍にも匹敵する。
「「ギャアア!」」
断末魔の悲鳴を上げ、アポカリプス一族の魔導士が吹き飛んだ。
彼らはレベルで言えば間違いなく50以上。
世界でも最高峰の力を持っていると言っても良かった。
しかしゲートの魔力はそんなアポカリプス一族を一瞬でかき消すほどのものだった。
「さあ、覚悟はできたか」
ゲートはアポカリプス一族の中心に立つと、魔力を集めだした。
「消えろ、忌まわしき者共よ!」
「そうはさせません!」
エントラは杖を高く掲げ、フォースフィールドを張った。
だが、ゲートの魔法はその光の膜を一瞬で吹き飛ばし、エントラは魔力の反動で何処ともなく遠くに吹き飛ばされた。
「キャアアアッー!」
「エントラッ!」
ゲートの手が一瞬止まった。
それは彼に最後に残された優しさだったのだろうか。
だが彼が手を止めるよりも早く、エントラはゲートの魔力で遥か遠くの彼方に吹き飛ばされた。
「エントラ……」
少し考え事をしたゲートだったが、その後、狂ったように笑いだした。
「クックククク、そうだ。ここにはもうエントラはいない。俺が守ってやるようなものはもうここにはいないのだ。さあ、全てを灰燼に帰してやる」
その日、遥か遠方に飛ばされたエントラをただ一人残し、異界の門番の一族だったアポカリプス一族は歴史上から消滅した。




