490 相容れぬ兄妹
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「ゲート! あのバグスという男は危険だ!」
「お前に何が見えたというのだ、彼は俺の意志に賛同した唯一の男だ。彼は俺と共にこの腐った世界を淘汰する目的のために動いている」
「違う、アタシはアイツを見た時に感じた。アイツはアンタの思っているような奴ではない!」
大魔女エントラの魔法は魔将軍ゲートに当たる前に霧散する。
魔将軍ゲートは魔法無効化結界を張ったようだ。
「それならそれでもいい。先程も言ったはずだ、目的のためには過程はどうあっても構わない。その過程がバグスをどう使うかということだ」
「アンタ……そこまで変わってしまったのかねェ……昔は奴隷に猛反対して人を道具のように使うことを躊躇していたのに」
「お前には関係ない。大事の前の小事だ、過程がどうあろうとも、世界を正しい方向に導く事ができればそれでいい。痛み無くして変革は無い、そのための破壊だ!」
「そのためには弱者も切り捨てるというの?」
「所詮変革に耐えられないようではその程度の存在。破壊の上に生み出される新たなる生命、これこそが世界を豊かに導くのだ」
二人の話は平行線だ。
「それよりもなぜお前はあの者達に与する? いや、あの者達の前に人間達と共に戦っていたことは知っているぞ」
「アタシ達長命種にとったら確かに短命種の人間なんてちっぽけかもしれないねェ。でも、そのちっぽけな存在が成し遂げたことはアタシ達長命種が無駄に生きている長い時に比べて遥かに輝いて見えるのさねェ」
「何だと? お前はあの短命種にそれだけの価値があるというのか」
魔将軍ゲートは魔法での攻撃を一旦中断する。
「価値はある。そして、何かを成し遂げた人の名前や功績はずっと残り続ける。それは……無駄に長く生きるよりもはるかに長い時間その人が生きたことを証明することになるからねェ、もう死んでいった仲間達、彼ら彼女らの名前は今でもこの世界で伝説として、子供の寝る前のおとぎ話として語られているのよねェ」
「死ねば終わる。いくら話で伝えられたとしても本人がいなければ何の意味も無かろう!」
「アンタは強いからわからないのよねェ。みんなそんなに強くない、だから英雄に憧れる。そして夢を息子や娘、孫に託していくのよ」
「所詮弱者の傷の舐め合いではないか。強ければそのようなことは必要ない」
大魔女エントラは魔力を止め、無防備な体勢で魔将軍ゲートのそばに寄った。
「兄様、貴方は充実した人生を送っているのですか?」
「充実だと? そんなことは考えたことも無い。俺は自らの為すべきことをやり遂げるまで生き続けるだけだ」
大魔女エントラ、いや、ただの女性としてエントラは悲しそうな顔を見せた。
「可哀そうな兄様、兄さまは強すぎた故何が正しいか見えなくなってしまったのねェ」
「何だその目は! 俺を……馬鹿にするのか!?」
「兄様、アタシは知りました。誰も一人では生きていけないのです。かつてアタシの元に人間達が魔王を倒す力を求めて現れました。その時アタシは脆弱な短命種と彼らを馬鹿にしていました。……しかし彼らと旅をする中でアタシは温かい人との触れ合い、温もりを知ったのです。長い旅の末アタシ達は魔王を倒しました。そしてその後彼ら、彼女らは一人一人とこの世を去っていきました、しかし彼らの残してくれた楽しかった記憶は今でもまだ忘れることなくアタシの中に生き続けているのです」
「死んでなお生きているだと、そんなことがあるか! 死ねば所詮それで終わりだ!」
魔将軍ゲートはエントラを突っぱねた。
「もういい、戯言を言えないようにここで完全に消滅させてやる! お前が消えれば所詮お前のことも忘れ去られるだけだ!」
「いいえ、アタシはアタシの正しさを証明するために、兄様に打ち勝ってみせます!」
魔将軍ゲートと大魔女エントラ、二人の魔力はお互いに究極の域に達していた。
これがお互いの渾身の一撃による対決となるだろう。




