489 世界に絶望した男
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「答えろゲート! お前は何故掟を破った!?」
「作られたルール、それが本当に正しいかどうかお前こそ考えたことあるのか?」
「それは詭弁だ!」
「何とでも言うがいい。だが俺は世界の真実を見た」
魔将軍ゲートは攻防戦の中で大魔女エントラの魔法をあしらいながら話を続けた。
「異界の門を開く力があるのに、何故その異界を覗くことが禁忌か、それは異界に世界の真実があるからだ!」
「世界の真実だと!!?」
「そうだ、お前の知らない世界の真実だ。俺は異界に行き、そしてそこで幾多の世界を見た。しかし……どの世界にもあったのは貧富、強弱、そして争いだ!」
「な……。何だと」
魔将軍ゲートの目は憂いを秘めていた。
「俺は異界で何度も貧富や強弱の差で虐げられるもの、悲しむものを見た。だがいつかは未熟ながらも成長し、世界の行く末を委ねる事ができると信じた。だが結果はどれも愚かな結末だった!」
「そ……それは……」
「愚かなもの達は全て、有り余る力を使い切れず、滅亡を迎えるだけだった! 身体を巨大化させ、最終的には食べる物を失い絶滅していく巨大生物、共食いの末に滅び去ったもの、そして……自ら生み出した力で星そのものを崩壊させる愚かな種族もいたくらいだ!」
ゲートは吐き捨てるように自らの見てきたものについて語った。
「生物は愚かだ。絶対者に統制されなくては正しき道に進むことは無い。善悪を超えた絶対者、それが俺だ。俺は争いの無い世界を作るために一度この腐った世界を全て破壊することこそが真意だと気が付いた! 破壊無くして再生は無い」
「まさか、それがアンタが魔族に身を堕とした理由だというの⁉」
「物事には過程と結果がある。俺がこの身を魔族にしたのは過程でしかない。俺は人間では決してたどり着けない領域に行き、世界を正す力を手に入れるために魔族になった。いずれ欲望まみれの魔族も破壊が終わり必要なくなれば俺が淘汰する」
「変わったねェ……。あれ程弱い人のために力はある、だから強くなってその人達を守るんだと言ってた兄さんが……」
大魔女エントラは目の前のゲートを悲しみを秘めた眼で見つめた。
「そんな目でオレを見るな。俺は絶対者、俺が憐れむことはあれど、俺が見下されたり哀れに思われることは何一つとして無い!」
「何か後ろめたいと声が大きくなる、アンタはやっぱり変わってないよねェ」
「黙れ!」
魔将軍ゲートの魔法が威力を増した。
何かよほど触れられたくないことに触れられてしまったのだろう。
「弱い者は弱いままでいい。弱い者に力を与えてしまうと、増長するだけだ!」
「この頭でっかち!」
「何とでも言うがいい。所詮お前は俺に守られたあの頃の弱いお前のままだ」
「そんなことは無い! アタシは仲間達と一緒にいることで色々と知った」
「仲間だと? そんなもの必要ない。お前はあくまでも利害関係で協力する相手、それを仲間と勘違いしているだけのことだ!」
魔将軍ゲートにとってはマデン、パンデモニウム、アビス、どれも同じ魔将軍と名乗ってはいるがただの利害関係で協力しているだけの相手でしかない。
「だが一人だけ俺の真意を理解する者がいた、俺がもし仲間と呼べるものがいるとすればそいつだけだ」
「それって、あの薄闇色のフードの男のこと?」
「ふん、お前がそれを知ってどうする。この空間で消え去るお前が何を知ろうと、外にその話は持ち出せないのだからな!」
魔将軍ゲートが唯一同等の仲間と認めているのは、『バグス』のことだ。
しかしなぜこの二人がお互いを認め合ったのかは、本人達以外は誰もわからない。
しかし一つだけ言えることがある。
魔将軍ゲートと、バグスはこの世界そのものを破壊しようとしているということだ。




