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488 絶望を見た眼

◆◆◆


 誰もいない、何も無い空間に二人の人物がいる。


 一人は男、もう一人は女のようだ。

 男は魔将軍ゲートと呼ばれる人物。

 女の方は大魔女エントラと呼ばれる人物だ。


 今この空間にはこの二人だけがいる。


「ここがお前の墓場になる、墓標も必要無いように全てを消滅させてやろう」

「それはこっちのセリフだからねェ。この何も無い空間で今までの過去を永遠に悔やみ続けるといいさねェ!」

「口だけは一人前になったようだな!」


 魔将軍ゲートは魔法を軽く放った。


 軽くとはいえ、魔将軍と呼ばれる程の男だ。

 その魔法は何もない空間でどこまでも遠くに伸びる炎の竜になった。


「この程度で様子見とは、舐められたもんだねェ!」


 大魔女エントラは炎の竜を片手でなぎ払い、その火を手に取りこんだ。


「ふう、小手先の芸はいいから、本気を出しなよねェ」

「ふん、あの炎の竜を覚えていないのか。お前が初めて使った魔法を再現してやったのに」

「な……!」

「どうやら思い出したようだな。落ちこぼれのエントラ」


 大魔女エントラが落ちこぼれとは……。


「我がアポカリプス一族の落ちこぼれ、それがお前だった。異界門を守る一族、それがアポカリプス一族だ。それは異界の脅威を世界に入れてしまわないための力、守る力だ。しかしお前はその力を発動できなかった」


 大魔女エントラは魔将軍ゲートの言葉を聞き、悔しそうに唇を噛んだ。


「言うな、もうあの頃のアタシじゃない!」


 世間で恐れられ、大魔女と呼ばれる程のエントラがまるでただの少女のような反応を見せた。


「ふん、お前は所詮あの頃のままだ。世界の本質も見えず、何が正しいかも判断できていない」


 魔将軍ゲートの目は悲しみとも憎しみとも同情とも取れる複雑な目だった。


「何が……正しいかだと! まさかゲート、お前は魔族が正しいと思っているのか!?」

「ふん、善悪の二次元論なぞ愚の骨頂。魔族が善で人間が悪のわけが無いだろう」

「ならなぜお前は魔族になった⁉」

「ふん、魔族は所詮俺の中の過程に過ぎない。それも理解できないか……」


 大魔女エントラと魔将軍ゲートの話はお互いの魔力対決の中で行われているため、二人共戦いながら話している状態だ。


 炎と炎、氷と氷、雷と雷。


 お互いが何かの魔法を使えばそれに対応するように片方が同じ魔法で相殺する。

 それが延々と続いている。


 時間はどれ程流れたのかわからない。

 しかし、この二人の戦いはいつまでも終わる気配を見せない。

 ここが何もない空間でなければ、周囲の物体は悉く壊滅しているであろう。


 それくらいこの二人の戦いはハイレベルだった。


 それも最大火力の魔法をお互いが惜しみなく出しても魔力が無尽蔵なくらい尽きることは無い。

 これが門番の一族、アポカリプス一族の戦いだと言えるのだろう。


「こんな不毛な戦いを続けて、何があるというのさねェ?」

「お前の間違いを正すためだ。お前は世界の深層が見えていない」

「深層? アンタは一体何を見たっていうの?」

「この世界の根本は……絶望だ!」


 魔将軍ゲートの言葉に戸惑った大魔女エントラは魔法の相殺を失敗した。


「くあァっ!」


 大魔女エントラが腕を負傷した。

 彼女はその傷を魔法で治しながら魔将軍ゲートを睨む。


「絶望……アンタは、一体何を見たってのよねェ!」

「人間だけではない、この世界には絶望しかないのだ……世界の根本は、悪だ」

「何でアンタがそれを決めつける事ができるのさねェ!」

「俺は見てしまったのだ。それも一つだけではない。どの世界にも悪しか存在しなかった」

「まさか、アンタ……一族の掟の異界の門の中に入ってしまったの?」

「……」


 大魔女エントラが杖を握り直した。


「自ら掟を破っておいて、世界に絶望したなんて……絶対に許さないからねェ!」


 大魔女エントラは憎悪に燃える目で兄である魔将軍ゲートを睨む。


「もう……アンタのことを兄だとは思わない。魔将軍ゲート、アンタは絶対にアタシが……倒す!」

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