485 ユカの中の創一郎
眠い……ボクはとても強い眠気に襲われた。
なぜだ?
ボクは状態異常耐性を持っているはず。
しかしこの魔将軍アビスの魔法はそんなボクの状態異常耐性を無視するものだった。
これは、魔法ではないのか?
いや、辺りを包み込んでいる紫の霧は間違いなく魔法によるものだ。
その魔法を受けた人達は全員がその場に崩れ落ち、眠りについてしまった。
これは凶悪な睡眠魔法のはずだ。
しかし、なぜ状態異常を無視した魔法が使えるのか?
理解できない。
考えても答えが出てこない。
ボクはもう思考が及ばないくらい……眠気に襲われ……てしま……った。
◆
「キャハハハハハ、いくら救世主と呼ばれる程のヤツでも睡眠欲を極大まで巨大化させればひとたまりも無いわね。そのまま死ぬまで眠り続けてしまいなさい」
「貴女は、一体何をしたのですか!」
「そうねえ、厄介な連中に全部睡眠欲を極限まで高めて全員眠らせてしまっただけよ、なぜかアンタは眠らないみたいだけど、戦う力の無いアンタが一人だけ起きていても何も怖くないわ。そこで眠った奴が衰弱死していくのを指をくわえて見ているのね。キャハハハハハ!」
魔将軍アビスはこの辺りにいた全ての者達を極大まで睡眠欲を高め、全員深い眠りにつかせてしまった。
今ここで起きているのは、魔将軍アビスとエリアだけだ。
しかしエリアは魔将軍アビスの言ったように戦う力を持たない。
もうここで戦える人は誰もいないのだ。
ユカも完全に眠りについてしまい、起きることは無い。
『ユカ! ユカ!』
ユカは私の呼びかけに応えない。
深層意識の中でも完全に熟睡しているようだ。
仕方ない、ここは私しか動くことはできないようだ。
ユカ、その身体使わせてもらうぞ。
「う……。くッ……!」
「え? 何で?? あれだけ睡眠欲を極大まで高めたのに、何でアンタは起きる事ができるのよ?」
「生憎、今の私には眠らなくても問題が無いんだよ」
「ユカ……貴方、いや、違う……ユカだけど、ユカじゃない」
エリアは私がユカと別の存在だと気が付いたようだ。
「私はユカだよ。だけど前の人生のユカだけどね」
「な……。何なのよ、アタシちゃんの計画をことごとく潰して、面白くない、面白くないーっ!!」
魔将軍アビスがヒステリーを撒き散らしている。
だが彼女の魔法は私には何の効果も無かった。
やはり魔法耐性は効果が出ているようだ。
それだとあの睡眠魔法は魔法であれど魔法でないと言える。
あの魔法の正体は、欲求を極限まで高めるものなので、攻撃魔法や精神関与には当てはまらない。
それ故に攻撃魔法や攻撃補助魔法といったたぐいの扱いではないので、魔法耐性には効果が無かったのだ。
今の私はユカの身体を借りて動いている状態だと言える。
つまりは眠いという意識はユカの意識や身体が感じているが、身体を動かす私は寝ているユカを操っている形だ。
だから今の私にはあの凶悪な睡眠魔法は全く効果が無いのだ。
「さあ、来い。今の私にはお前の魔法は効かないぞ」
「ふざけるんじゃないわよ! そうね、それならアンタは数万のモンスターになぶり殺しにさせてあげるわ」
魔将軍アビスは味方のはずのモンスターや魔族に向かい攻撃魔法を放った。
眠ったままのモンスターが次々と絶命していく。
「さあ、アンデッドとなり蘇りなさい!」
魔将軍アビスの力は、数万のモンスターの大軍を全てアンデッドとして復活させた。
その数はおよそ三万以上!
マズい、このままアンデッドの軍団にこの場所に来られてしまっては、寝たままの人間側の軍が全員殺されてしまう。
「くっ! 私が全部まとめて相手してやる!」
私は、アンデッドの軍団の中心に向かい走った。
それは私そのものをモンスター達のターゲットにするためだ。
たった一人で三万以上のアンデッドの群れとの闘い。
だがここで退くわけにはいかない!




