482 思考なき進軍
今までは痛みを感じたり恐怖を感じれば逃げ出していたゴブリンにコボルトやオーク達だったが、魔将軍アビスの魔法はそれらのモンスターの精神を操り、恐怖と痛みを忘れさせてしまったのだ。
そうなった後のモンスターは途端に凶悪さを増した。
なんせ腕が吹き飛ぼうが足が無くなろうが動き続け、動けなくなって絶命するまで常に動いて攻撃をしてこようとしているのだ。
こうなるといくらC級、B級モンスターでもA級モンスター並の脅威になってしまう。
それはこの連中が痛みを感じず、恐怖を感じないのでいつまでもどこまでも動き続けるからだ。
「さあ、アタシちゃんのために死になさい。一人でも多くの人間を殺してから死ぬのよ。キャハハハハ」
魔将軍アビスは自身の放った魔法の効果を上空から楽しみながら眺めている。
人間を蹂躙するモンスター達が用意する恐怖の悪感情をエネルギーにするのを楽しみにしているのだ。
恐怖と痛みを忘れたモンスター達は倒された仲間を踏みつぶしながらどんどん前に迫ろうとしている。
その数は数千、下手すれば万を超えそうな勢いだ。
この全てのモンスターが押し寄せてしまえば、いくら屈強な騎士団や武士団でも一たまりも無い。
押し寄せるモンスターはどんどん数が増える。
しかも魔将軍アビスの魔法は広範囲に広がり、なお、エリアさんの浄化の魔法はアンデッドでない普通のモンスターには効果が無い。
魔将軍アビスの魔法は何か特殊らしく、モンスターの精神を完全に乗っ取る形のものなのだ。
焦点の定まらないモンスター達は幽鬼のようにフラフラしながら、手に持った武器を振りまわして人間に襲いかかる。
限界を超えた力で疲れも痛みも知らずに襲いかかるモンスターは本来の強さの倍くらいやっかいだ。
善戦していたはずの騎士団は盾役が負傷し、一気にドミノ倒しをするように崩れ出した。
モンスター達はその崩れた場所から一気に人間達を攻め滅ぼそうとしている。
「ダメだ! このままでは押し切られる!!」
「どうにか持ちこたえろ!」
騎士団は崩れた体制をどうにか建て直そうとするが、一度崩れた形を元に戻すのは至難の技だ。
「総員、撤退しなさい!」
ゴーティ伯爵が騎士団全員に撤退命令を下した。
命令を聞いた騎士団はモンスターに背を向けないように盾を構えながら少しずつ後退している。
このまま体勢を立て直そうとすればもっと悪化するかもしれない。
それを考えればすんなりと撤退を指示するゴーティ伯爵はプライドやメンツよりも実を取る人のようだ。
撤退する騎士団は盾での防戦一方に徹することで、致命傷は免れているが少しずつ負傷者が増えている。
モンスター達はそんな騎士団にどんどん押し迫ろうとしてた。
『ユカ、私のいうことを聞いてほしい』
『ソウイチロウさん、何か思いついたんですか?』
『ああ、どうもよく見るとあのモンスター達の動きがおかしいことに気が付いたんだ』
『おかしい、とは一体どういうことですか?』
ソウイチロウさんは何かに気が付いたらしい。
『あのモンスター達の動きはまるでゾンビゲームのゾンビの動きそのものだ。統一されているかもしれないが、自身の意志を持たないので最低限のルーチンしか実行できていない』
『ルーチン? それはどういうことですか』
『ルーチンとは、動きをパターン化したもののことだ。つまりあのモンスターは自身の考えを魔法で奪われているようなので、前に攻め込むこと以外の選択肢が無い』
『それは……その動きを読めればアイツらを一気に倒せるってことですか?』
『そういうことだ。ユカ、お前ならこの後どうすればいいか思いつくはずだぞ』
ボクはソウイチロウさんに、あのモンスターの大軍を倒す方法を考えるように促された。




