481 恐れを忘れたモンスター
数千のモンスターが一掃されたが、魔族の群れはまだまだ残っている。
エリアさんの力のおかげでボク達には肉体的には疲労は無いが、精神的にはみんな連戦に続く連戦でかなり堪えるようだ。
ゴブリンの群れが徒党をなして武器を振りまわしてきたが、シートとシーツの二匹の狼によって一瞬で蹴散らされた。
また、コボルトが集団で弓を撃とうとしてきたが、それはアンさんのブレスで向かい風にされ、矢の雨がコボルトに降り注いで全滅。
鎧を着たオーガーの群れは、カイリさんとマイルさんが二人で迎え撃ち、カイリさんの豪槍とマイルさんの丸太杭打ちのスキルでそのことごとくが打ち砕かれる。
アンデッドの集団はホームさんが聖剣『魂の救済者』でなぎ払うと再生することも無くその身体が光の中に消滅していった。
空飛ぶモンスターの群れはドラゴンライダーのメートルックさんやミクニ・リョウクウさんの飛龍武士団が次々とその翼を狙い、地面に叩き落としている。
ボク達人間側の各自がそれぞれのできることをして戦うことで、魔族の大軍は少しずつその数が削がれている状態だ。
「遠方の敵なら味方の被害を考えなくて済むので楽ですわ……プロミネンス・ノヴァ!」
ルームさんの火炎系極大魔法、プロミネンス・ノヴァが遠方のモンスターの群れを捉えた。
巨大な火柱がキノコ雲のようになって辺りを包み込む。
その火柱が消えた時、遠方のモンスター達のいた場所は巨大なクレーターのようになり、チリ一つ残っていなかった。
「空の敵ならワシに任せるがよい、雷雲よ……荒れ狂え!」
「飛龍武士団、総員退避せよ!」
「「「承知!」」」
ミクニ・リョウクウさんの指示で飛龍武士団は即座にその場を離れ、その直後アンさんは巨大な雷を四方八方に撒き散らせた。
空を飛ぶモンスターのことごとくがアンさんの雷を受け、上空から地面に落下する。
「騎士団、突撃せよ!」
「「「オオオォー!」」」
ゴーティ伯爵のレジデンス騎士団、ラガハース騎士団長の帝国騎士団、ホームさんのフランベルジュ領の精鋭達、その全てが空から落下したモンスターに突撃した。
空中から落ちてくるモンスターは地面にいるモンスターを押しつぶし、その怯んだ隙を一気に叩くゴーティ伯爵による作戦が功を奏したのだ。
この一時間少しの間に三万以上いたモンスターはその大半が壊滅状態になっていた。
◆
「何ということだ、あれだけの大軍が……人間どもめ」
「どうするのよ! 肝心な時にゲートのクソ野郎はどこかに姿消すしさっ!」
「アビス殿、いない者の事を言っても仕方あるまい。某は一度兵を引いた方が良いと思うのだが」
「冗談っ! そんなことできるわけないじゃないの、アンタ……あのクズの人間どもに調子乗らせるつもり?」
どうやら余裕で蹂躙できると見ていた人間相手の戦いが思った以上に苦戦しているので、二人共がそのことを焦っている状態だ。
「これ以上兵隊を減らしてどうする、兵隊は使い捨ての道具ではないのだぞ」
「あら、アタシちゃん以外の存在は全て便利に使われるだけの道具よ。個人の意思? そんなもの必要ないわ……そうだ……いいこと思いついちゃった。キャハハハハハ」
「アビス殿、何を……まさか!」
魔将軍アビスは制止する魔将軍パンデモニウムをその場に残し、一瞬で姿を消した。
「アイツ……それだけはやめておけと以前言ったのに」
戦場の上空に魔将軍アビスが姿を現した。
「そうよね、兵隊に意志なんて必要ないのよ。さあ、アタシちゃんの思うままに動きなさい! キャハハハハハ‼」
魔将軍アビスはモンスター達の群れに向かい、何かの魔法を使った。
「さあ、アンタ達はアタシちゃんの奴隷、アタシちゃんが死ねと言えば喜んで死ぬのよ。今から人間どもを一人残らずなぶり殺しにしなさい!」
精神関与の魔法、それも恐怖を取り除いた痛みを知らない戦士を作る魔法。
魔将軍アビスがモンスターの大軍に使ったのは恐怖と痛みを感じさせない狂戦士を作る魔法だった。




