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476 両軍の将

◆◆◆


 召使いの少女の前で光の中に家族が消えていく。

 それを魔将軍パンデモニウムはじっと見ていた。


「泣くな。泣いてお前の家族が喜ぶのか?」

「ご主人様……」


 パンデモニウムは少女の頭に優しく手を乗せてなでた。


「お前はこの城に残ったただ一人の人間だ」


 そう。この牙城に今いるのは魔族とモンスターだけである。

 少女の家族も元々は人間だったが、魔将軍アビスの気まぐれで全員が殺され、その後アンデッドとして復活した。


 皮肉なことに創世の女神の力の片鱗を見せたエリアの浄化の光はアンデッドになってしまった彼女の両親や大切な人を全て光の中に浄化してしまったのだ。


「わたしはもう人間が嫌です。ご主人様は初めてわたしを優しく扱ってくれました。わたしたちの一族は生まれながらに国を持たない流浪の民、奴隷にされた一族だったのです。人間はわたしたちを家畜以下のものと見ていました。そんな中でわたしたちを虐げる人間を殺して助けてくれたのがご主人様たち魔族だったのです。わたしはご主人様のためなら人間であることを喜んで捨てます。どうか……お慈悲を、ご主人様の眷属に加えてくださいませ」


 少女は気がおかしくなったわけではない。

 元から虐げられ、人間を信じられなかった時に偶然救いの手を差し出してくれたのが魔将軍パンデモニウムの率いる軍団だったのだ。


「お前……名前は」

「わたしの名前は……ありません。奴隷の一族にはそのようなものは存在しなかったのです」

「そうか……」


 魔将軍パンデモニウムは少女を見つめ、何かを考えているようだ。


 その空気を邪魔するように扉を開けて部屋に何者かが入ってきた。


「パンデモニウム様! わが軍が……壊滅です!」

「何だと!」


 魔将軍パンデモニウムは伝令の言葉を聞き、四本の腕にそれぞれ武器を握りしめた。


(それがし)が出る! それまで持ちこたえろ!」

「承知……致し……ま……し」


 伝令はその場で事切れた。


 魔将軍パンデモニウムは鎧を身に着け、武器を握ると少女の方に振り返った。


(それがし)はこれより戦に向かう。お前はここで待て」

「ご主人様……」

「戻ってきたら、お前に名前を付けてやろう。それまで、ここで大人しく待っていろ。部下にはお前に手を出すなと伝えておく」

「はい……この部屋をキレイにして、お帰りをお待ちしております」


 魔将軍パンデモニウムは召使の少女を見つめ、ニッコリと笑った。


「いい子で待っているのだぞ」


 魔将軍パンデモニウムは再び扉の方に向かった。


「行くぞ! 魔将軍パンデモニウムの恐ろしさ、人間どもに見せてくれるわ!」


 魔将軍パンデモニウムは大きく雄たけびを上げ、牙城を駆けだした。

 そして最も高い塔の上に上ると、その場から大きくジャンプし、遠く離れた戦場まで一瞬で到着した。


(それがし)の名は魔将軍パンデモニウム! この名を恐れぬ者はかかってくるがよい!」


 魔将軍パンデモニウムのその凄まじい咆哮は戦場を揺るがした。

 エリアの浄化の光で弱体化していたはずの魔族やモンスター達は突如現れた魔将軍パンデモニウムの姿に鼓舞され、士気が高まった。


「ぬう、あれが敵の大将格か! あれは間違いなく……マデンより……強いぞ!」


 魔将軍パンデモニウムの前に立っていたのは、ミクニの国王の一人、『ミクニ・リョウカイ』だった。


「貴公、マデンを知っておるのか!」

「知っているも何も……マデンを撃ったのは我らミクニの三兄妹だ!」

「そうか……それでは仇を取らせてもらおう。マデンは某の弟、その無念をはらさせてもらおう!」

(あやかし)の将よ、確かパンデモニウムと言ったか」

「左様、某が魔将軍パンデモニウムである!」

「そうか、それでは拙者も名乗らせていただこう、拙者はミクニの国王が一人、『ミクニ・リョウカイ』であるぞ!」


 お互いの将が自らの名前を名乗った。

 これから激しい戦いが始まろうとしている。


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