475 神の力と悪魔の力
エリアさんは管理病棟で負傷兵相手に回復のスキルを使っている。
幸い今現在の時点で負傷兵や重傷者はいるが、死者は出ていない。
そして、エリアさんの力は腕や足、目などを失った兵士達の身体を再生させた、これほどの力は大僧正でも大司教と呼ばれるほどの人でも持っていない。
「おお、奇跡だ……俺の失われた手が元通りに」
「あれだけの火傷を負ったのに、わたしの顔が元にもどったのか」
「このお方は女神様、創世の女神様の巫女に違いない」
エリアさんによって命を救われた人達は全員が彼女に感謝している。
エリアさんはニコっと笑うと再び運び込まれ続けている兵士達や騎士、武士達を分け隔てなく回復させていた。
怪我の治った兵士は再び戦場に戻る。
それは死に急ぐためではなく、エリアさんに助けてもらった命を少しでもモンスターや魔族を倒すことで恩返しをしたいという気持ちの現れだろう。
しかしエリアさんはそんな戦士達の後姿を見て少し悲しそうな表情をしている。
せっかく怪我や重傷を治しても、彼等は再び戦場に傷つくために戻るのだ。
だからと彼らに「行かないで下さい」と言えるわけもない。
そして負傷兵は戦闘が続く度、どんどん数が増えている。
魔力的にはエリアさんの力が足りなくなることは無い。
なぜならエリアさんは創世神『クーリエ・エイータ』の半身、エイータの化身なのだ。
その力はまさに神の力と言えるだろう。
しかしそんなエリアさんの元に押し寄せる悪意があった。
「あーら、アンタね。この不快なエネルギーでアタシちゃんを苦しめたのは!」
「貴女は……!」
エリアさんの元に現れたのは魔将軍アビスだった。
「そうなのね、ここが……こんな場所があるから死体が作れなかったのね。アタシちゃんの下僕がもっと増えるはずだったのに、アンタ……邪魔よっ!」
魔将軍アビスの黒い魔力がエリアさんのいる簡易病棟の場所を押しつぶそうとする。
「そうはさせません!」
エリアさんは魔将軍アビスを睨むと、白い魔力を辺りに満ち滾らせた。
白い光が戦士達を包み込む。
すると戦士達に力がどんどんみなぎってきた。
「な、なんなのよぉ! この不快な光は……殺してやる……コロシテヤル!」
魔将軍アビスの目が金色に光る。
彼女は辺りの黒いエネルギーを全てかき集めた。
その影響で巨大アンデッドが大量に出現し、その巨大モンスター達は簡易病棟を踏みにじろうとしている!
「クダイテヤル……フミニジッテヤル……バラバラのグチャグチャニ……!」
魔将軍アビスはとても美少女に見えないような醜悪な顔になり、たどたどしい言葉で怨嗟を呟いていた。
「悪しき者達よ、退け!」
エリアさんの白い魔力がさらに強さを増す。
すると簡易病棟を襲おうとしていた巨大アンデッドは少しずつ溶け、光の中に消え去っていく。
「グギャギャァアアアアアー!」
白い光は辺り全てを包み込んだ。
もう良い、と言っても良いくらいだ。
しかし白い光はどんどん戦場に広がる。
その範囲はどんどん広がっていた。
エリアさんの放つ光はその後も広がり続け、そのうち白い光は建物の中すら全て照らすような状態になっている。
この白い光は浄化の効果があるらしく、低レベルの魔族、アンデッドといった者の大半が白い光の中に消えていった。
◆
「お父さん、お母さん!」
召使いの少女は光の中に消えていく家族を泣きながら見ているだけしかなかった。
戦場から離れた場所のはずのパンデモニウムの牙城、エリアの浄化の光はこの城にまで広がっていたのだ。
現在この城にいるのはパンデモニウムの召使の少女以外全てアンデッド化された人間だけだ。
皮肉なことに、エリアの浄化の光はアンデッド化された少女の家族も全て光の中に溶かしてしまった。
「許せない、神の力がわたしから全てを奪うなら……私は悪魔にでも魂を売る……」
「……」
憎悪に燃える召使いの少女をじっと見ていたのは、魔将軍パンデモニウムだった。




