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472 門番の一族

 大魔女エントラ様は憎しみのこもった目で魔将軍ゲートを睨んでいる。


「一族の裏切り者……絶対、許さないッ!」

「許さない……だと? 俺に決して勝てなかったお前に何ができる?」


 この二人は何か因縁があるらしい。


「アタシの魔法で……アンタを倒すッ!」

「フン。一族の落ちこぼれが……。お前ごときが今や大魔女等と呼ばれているようだな」

「言うなッ! もうあの頃のアタシとは違う……兄さん。いや、魔将軍ゲート、我がアポカリプスの一族の矜持を忘れたアンタには、決して負けないッ!」


 魔将軍ゲートが笑っている。


「ククククク、アポカリプスの一族。門番の一族か。そのようなもの、もう既にお前しか残っていない。俺は気が付いたんだ、この世界は守るだけの価値の無いモノだ」

「アンタが何を見て何を感じたのかは知らない、でも……何故門を破壊した⁉ そのせいで邪神は再びこの世界を滅ぼそうとしている」

「フン、このような腐った世界、一度何もかも滅びてしまえばいい……俺にとっての魔族はその地ならしのためのものだ」


 どうやら魔将軍ゲートは大魔女エントラの肉親と呼べる存在だったようだ。


「変わったねェ。あの優しかった兄さんはもう……どこにもいないんだねェ……それなら、

魔将軍ゲート! ここで引導を渡してやるッ」

「フン、お前程度がどれだけの力を使おうと……俺を倒せるわけがない」

「そんなことは無い! アタシは長い時をかけて修行した。もうあの落ちこぼれと呼ばれていた頃とは違うからねェ!」

「それならその力、俺に見せてみろ!」


 魔将軍ゲートが剣を構えた。

 そして魔将軍ゲートは剣を一振りした。


 大魔女エントラ様はその剣を微動だにせず空中に立ったまま見ている。


「ギャアアァアムッ!」


 大魔女エントラ様の後ろにいたドラゴンの首が真っ二つに裂けた。

 しかしその前にいた大魔女エントラ様は全くの無傷だ。


「ほう、空間を切り取って攻撃をかわしたか……」

「この程度、アポカリプスの一族なら誰でもできることだったからねェ」

「ほざくな。この程度の攻撃も避けられなかったくせに」

「いつの話をしているかねェ、そんなこと、もう遠い記憶の彼方の話だねェ」


 今度は大魔女エントラ様が杖を高く掲げた。


「コメット……フォール!」


 大魔女エントラ様の魔力は天を貫き、天空高くから隕石の群れが魔将軍ゲート目掛け落ちてきた。

 あの魔法を喰らえば無傷で済むはずがない。


「ほう……ディメンジョンホール!」


 魔将軍ゲートは片手を掲げ、空中に黒とも白ともつかない空気の渦のようなものを作った。

 その空気の渦は穴のようになり、そこに全ての隕石が吸い込まれていく。

 その吸い込まれた隕石は……何故か魔将軍ゲートの後方、何もない荒野に場所を変えて次々と落下していった。


「門番の一族相手にこのような児戯で勝てると思っているのか。この未熟者が」

「クッ! 魔族に与して能力を失ったと思っていたのに……!」

「フッ、今の俺は魔族であると同時に、門番の一族の魔力とスキルも所有している。そんな想定もつかなかったか、愚妹よ」

「アタシはもうアンタのことを兄だとも思っていない。アタシがお前に妹呼ばわりされる筋合いはないからねェ、魔将軍ゲート‼」


 少しの沈黙の後、魔将軍ゲートは剣を高く掲げた。


「どうもここではお前と戦うには狭すぎるようだな。こちらへ来い!」

「どうせ罠とか仕掛けてるんでしょうに、お断りだねェ」

「そんなことはない、お前は俺自らの手で葬ってやらないと気が済まないからな。俺は自らの手で、忌まわしき門番の一族を滅ぼすのだ」


 魔将軍ゲートの掲げた剣は空間を切り裂き、人が入れるだけの隙間が作られた。

 その隙間は何か凄まじい力で周りを吸いこもうとしている。


「ゲート! まさか……門を開いたのか!」

「そうだ、俺とお前の決着をつける場所はここ以外にあるまい……」

「……」


 大魔女エントラ様と魔将軍ゲートは空中に切り裂かれた空間に二人共吸い込まれてその場から姿を消した。

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