467 そして夜明け
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「一体何だ⁉ 何が起きたっ!」
「アポカリプス将軍! 竜巻です。とてつもなく巨大な竜巻がこの牙城をっ」
パンデモニウムの牙城を襲った大竜巻は小型モンスターを何十、何百と巻き込んだ。
「すぐに魔法障壁を張れ! 急ぐんだ」
魔将軍ゲートは魔法部隊を呼び寄せ、魔力障壁を牙城に張った。
だが、すでに牙城内部に入り込んだ大竜巻は障壁に中型モンスターすら叩きつけるほどの勢いだ。
「この竜巻……エントラの仕業だな。アイツ……こんなことをするとは……」
実はこの竜巻、大魔女エントラが海上に集まっていた魔将軍同士の対決で発生した乱気流の流れをさらに一か所に集めて解き放ったものである。
だが、その事実に気が付いているのは魔将軍ゲートただ一人だった。
「何なのよこの竜巻は! アタシちゃんのせっかく用意したアンデッドちゃん達がメチャクチャじゃないのよ!」
魔将軍アビスもこの竜巻に翻弄されている。
大魔女エントラが魔力で作った竜巻は、魔将軍ですら舌を巻くほどの威力だと言えよう。
「むう、小さい者、元人間達は大型モンスターの陰に隠れろ。中型のモンスターは飛ばされないように各自が体のどこかを咥えるなり踏みつけるなりしておけ。なに、傷は後ですぐにでも治せる」
魔将軍パンデモニウムは部下達に命じ、大竜巻でモンスターがこれ以上被害を受けないように指示を出していた。
だがこの大竜巻は大魔女エントラが別にここを狙って攻撃したものではない。
偶然発生した魔力の奔流による乱気流を更なる突風でコントロールした魔法が勢いを増し、魔族の牙城に飛んできただけのものだ。
それゆえに魔族達にとってはこの未曽有の大災害は想定外としか言えない。
まあそれはユカ達やカイリ達の所に起こった天変地異にも等しい荒天も同じであるが、それを跳ね返してきた大魔女エントラの魔力がどれ程凄まじいかといえるものでもある。
「仕方がない、ここは俺が止めるしかないようだな」
魔将軍ゲートはそう言うと空中に舞い上がり、大竜巻の前に立ちはだかった。
「うむ、魔力を感じるぞ。これは間違いなくエントラのもの……それならばこうすれば!」
魔将軍ゲートは懐から何かを取り出した。
黒い色の巨大な魔石。
魔将軍ゲートは黒い魔石を掲げ、何やら呪文を唱えた。
すると、今の今まで猛威を振るっていた大竜巻は一瞬で黒い魔石に吸い込まれていく。
魔族達はその光景を黙って見ているだけだった。
「ふう、まさかこの魔石を使うことになるとはな……エントラ、お前のプレゼントがこんな使われ方をするなんて想像もつかないだろう」
「皆の者、うろたえるではない。人間どもに与する魔女の魔法は俺が無効化した!」
「「「ウオオオオー‼」」」
魔族達の雄たけびと歓声がパンデモニウムの牙城にこだまする。
魔将軍ゲートは未曽有の大災害をたった一人でくい止めたのだ。
「蹂躙せよ、殺戮せよ。人間を……創世神のしもべどもを全て滅ぼし、俺達の世界を作るのだ! 魔王様の加護は俺達にある!」
魔将軍ゲートはモンスター達を鼓舞した。
その言葉は竜巻で疲弊したはずのモンスター達に絶大な力を与え、残ったモンスターや魔族達はその場で雄たけびを上げた。
その凄まじい雄たけびは空気を震わせ、離れた場所にいるはずのユカ達人間のキャンプ設営地まで聞こえたほどだ。
そして、ついに魔族と人間の生存をかけた大決戦が始まろうとしている。
ついに……夜が明けた。
これからこの南西の土地は激戦地となる。
パンデモニウムの牙城の大門が開き、その中から数千数万の魔族が姿を現した。
大魔女エントラの大竜巻で戦力を失ったとはいえ、まだその数は軽く四万近く存在する。
魔族軍四万。
人間達七千五百少し。
この戦いの行く末は、誰も想像がつかない。




