465 決戦前夜
大船団の運んでくれたのは人員だけではなかった。
他に運んでもらえたものは食料などの必要な物資だった。
おかげで騎士団は久々にまともな食事をすることができた。
また、船の長旅で疲れた人達は、温泉を楽しむことで疲れを取っていた。
「ふー、風呂なんて久々だぜー。やはり海水で体を洗うのとは全然違うなー」
「本当ですね、ユカ様のスキルのおかげです」
「本当に驚きですよ。このような場所で大量の水を、量を気にせずに使えるというのは。兵団を指揮する上で気をつけないといけないのは食事や衛生面ですからね。それを疎かにする指揮官は間違いなく部下を無駄死にさせてしまいますから」
「父上は常にそういう場合のことを考えて兵士を運用していたのですか?」
「そうですよ。指揮官だけが恵まれた環境の軍は得てして全体の士気が低い、優秀な指揮官とは全体を見るものなのです」
「流石ですぞ。吾輩もミクニでは大軍を統括しておりますが、上がきちんと兵士達の士気を高められないと本来の戦いは出来ぬものですぞ」
今風呂に入っているのは、長い航海の末陸地に辿り着いたホームさんやカイリさん、それにゴーティ伯爵達だ。
風呂に入った後はキャンプ設営地で食事をしてから船に戻る予定だ。
キャンプ設営地のテントの数ではとても全員が寝ることはできない。
まあ船自体は錨で停泊しているのと、あの大嵐の後は特に海が荒れることも無いので船で寝ること自体は特に問題は無さそうだ。
「父上、いよいよですね……」
「そうですね。ホーム、お互い部下を見捨てて逃げるような無様な戦いにならないようにしましょう」
「はい、心得ております」
「ゴーティ伯爵殿、ホーム殿は吾輩が認める御仁ですぞ。ホーム殿ならきっと期待に応えてくれる、吾輩が保証しますぞ!」
「リョウカイ様。勿体ないお言葉です。そうですか……ホームはそれほど立派になったのですね」
「父上、僕はまだまだです」
温泉の中ではこの戦いの責任者達が全員で話していた。
兵士達や武士団達がこの戦いに生き残れるかどうかは彼らの指揮にかかっている。
だがここにいるのは間違いなく全員が立派な指揮官だ。
彼らはユカのおかげで今の自分達がここにいるということを実感している。
温泉でゆっくりと身体を休めた全員は、食事を取って明日の準備に取り掛かった。
◆
この戦いでどれだけの犠牲が出るのかは想像ができない。
それでもここにいる全ての人が恐れることなく、明日に備えてできることをしている。
ここにいる人達全員が怖くて逃げたいという気持ちが全く無いわけではない。
それでも優秀な指揮官、そして救世主のユカがいるということがここにいる全ての人達の心の支えになっているのだ。
明日になればこの土地は人と魔族の決戦の場所になる。
笑っていられるのは今だけなのかも知れない。
ある者は故郷に残してきた母親の話を、またある者は戦いが終わったら結婚するという話をしている。
はっきり言ってしまえば死亡フラグそのものだ。
だが、ユカ達と一緒にいるというのはその死亡フラグすら用意にへし折ることになる。
それほどユカ達はこれまで数多くの困難を乗り越えてきた。
「みんな、明日はついに決戦だ! ボク達の力で魔族を倒して平和を取り戻すんだ!」
ユカが全員に向かって叫んだ。
これは別に私が何かアドバイスしているわけではない。
彼が自ら考え、全員に伝えたことだ。
そして……ついに夜が明け、朝を迎えた。
辺りは不気味なまでに静かだ。
「全軍! 出撃‼」
ユカ達はラガハース騎士団長を先頭にし、それに追従する形で数千人の騎士団達が進軍を始めた。
岩山の中のキャンプ設営地をユカがマップチェンジしたことで、騎士団の人達は全員で移動する事ができた。
そしてついに、魔族と人間の決戦の火蓋が切られようとしていた。




