463 ワープ床と座標軸
ボクの身体を使ってソウイチロウさんがしようとしているのは何なのだろうか。
ソウイチロウさんはマップチェンジスキルで、壁のようになっている山の一部だけを一人だけが通れるように穴を開けた。
そしてその穴を抜けるように大量の水がボクの身体を押し流す。
『ソウイチロウさん、一体何をするんですか⁉』
『ユカ、もう少し身体を貸してくれ、悪いようにはしない』
まあ、ソウイチロウさんは人生の経験者としてはボクよりもよほど優れている。
でも鉄砲水で押し流されることが本当に計算なのか疑問だ。
大量の水に押し流されたボクは、岩山の外側に出た。
「さっき開けた隙間を元の岩山にチェンジ!」
ソウイチロウさんは、岩山から滑り降りると今さっき来た抜け道をマップチェンジスキルで塞いでしまった。
『どうするんですか! ボクこれでは戻れないんですけど‼』
『大丈夫だ。ここにワープ床を作れば、作戦は成功する』
ワープ床を作る? さっき作ったワープ床は何のためだったの?
「目的地は300メートル程か、目の前の地面をワープ床にチェンジ!」
ソウイチロウさんはスキルでワープ床をボクの目の前に用意した。
『さあ、ユカ。そのワープ床に踏み込んでみるんだ』
ボクはソウイチロウさんが何をしようとしているのかが理解できない。
でもここで考えている時間は無いんだ。
ボクはソウイチロウさんに言われたように、ワープ床に足を踏み込んだ。
すると、ボクの身体は一瞬で別の場所に移動した。
「ここは?」
「ユカ、どうしたんだ? いきなり姿を消すから心配したんだぞ」
ここは少し前にいたキャンプ設営地の中だ。
なぜボクはワープ床を踏んだのに冒険者ギルドの町ではなく、ここにいるのだろうか?
『ユカ、それを話している時間は無い、それよりもお前が何をしたのかを見てみるんだ』
『ボクがやったこと?』
ボクは目の前の光景を見て驚いた。
なんと、ボクが戻ってきたワープ床にどんどん水が吸い込まれている。
先程まで大雨で首近くまで水が溜まっていたとは思えないほど、水は一気にワープ床に向かい流れていた。
『ユカ、意味は分かったか? ここは先程まで栓をした湯船と同じ状態だったんだ。それをワープ床という水の流れ出る穴を用意したことでここの水は全て外に流れていった。さっき私がお前の身体を使ってやったことは、外の座標に合わせてここのワープ床の出口を用意するためだったんだ』
『ソウイチロウさん、ワープ床って冒険者ギルドの町に行くためのものじゃなかったんですか?』
「それは少し違うな。それはあくまでも移動先の座標軸を冒険者ギルドの町に合わせていたからということだ。ワープ床の座標軸を変更すれば入り口と出口の場所を変えることは簡単にできる」
凄い。
この能力ってそんなすごい便利なスキルだったんだ。
でもそれを聞いたら納得できた。
ソウイチロウさんがボクの身体でやろうとしていたのは、ワープ床をキャンプ設営地の内側と外側の両方で作り、内側の水を全て外に逃がすということだったのだ。
「助かった、流石はユカ様だ」
「ユカのおかげで誰一人犠牲者を出さずに済んだ」
「物資は濡れてしまったけど、まあ流されるよりはマシだよな」
兵士や騎士達は全員で水浸しになったキャンプ設営地を建て直している。
「おい、雨が止んだぞ!」
「本当だ、雲が晴れていくぜ」
「助かったぜ、もうしばらく雨は見たくない」
ボク達が空を見上げると、雲一つ無い天気になっていく。
先ほどまでの大雨は一体何だったのだろうか。
空を見ていたボクの上空に、巨大な紫のドラゴンが姿を現した。
「皆の者、戻ったぞ。偵察に出ていた者達は無事じゃ」
ボク達が上空から降りてきたアンさんを見上げると、その背中には偵察に出ていたはずの兵士達が乗せられている。
「酷い大嵐が起こってのう、水の中で溺れておったのをワシが助けてやったんじゃ。しかしひどい大嵐じゃった」
アンさんはドラゴンの姿のまま兵士達を背中から降ろすと、紫の服を着た少女の姿に戻った。




