462 ヒントは湯船の栓
大雨はあっという間に未曽有の大洪水になってしまった。
押し寄せる大雨は巨大な水の波になり、このままでは折角建てたテントを押し流してしまう。
これだけの大雨だ、水の流れを確保しなくては、この辺りが全て水没してしまう。
これはボクのスキルでどうにかできるなら、すぐにでも取りかならないと。
今ボクにできること、まずはこの土地全体の高さの変化だ。
「今ボク達のいる場所全体の高さをチェンジ!」
ボクのスキルは一瞬でテント設営地の高さを変化させた。
「助かった!」
「いや、ダメだ……確かに浸水はしなくなったが、今度は高台になったことで全てが下に押し流されてしまうっ‼」
迂闊だった。
確かに設営地の高さを変えれば浸水はしなくなる、だが……その分今度は直接大雨を全体に受けてしまうことでせっかくの糧食や資材、武器弾薬を流されてしまう危険性ができてしまった。
ボクがいらないことをしなければ……いや、何もしなかったら被害はもっと大きかったはず。
それなら、この高台自体を山で囲んだ盆地にすれば……!
「ボク達のいるこの場所の周りを小高い山にチェンジ!」
マップチェンジのスキルはキャンプ設営地を、一瞬で山に囲まれた盆地に変化させた。
これで外に漏れだす心配は無くなった……そう思ったのだが。
「隊長、ダメです。このままでは全てが水没してしまいます!」
「これだけの雨が逃げないとなると……オレ達全員溺死かよ」
「くそっ、雨さえ止んでくれれば……」
なんということだ。
今度はキャンプ設営地が盆地になったことで、大量の雨水の逃げ場所が無くなってしまった。
だからと今この山を元に戻せば……全てが押し流されてしまい、壊滅的な被害が残る。
ボクのせいで……苦しむ人が増えるなんて……。
『ユカ、何をあきらめている! あきらめても試合終了で済むわけじゃないぞ‼』
『ソウイチロウさん、でもボクのせいで……』
『悔やんでいるヒマがあるなら今できることを考えるんだ。私ならもう思いついたけどな』
『思いついたって、ソウイチロウさん。ボクにそれを教えてください』
ボクは時間の無い中、ソウイチロウさんにこの状況を打破する方法を教えてもらおうとした。
『ダメだ。自分で考えないと成長できない。だがヒントはやろう、ここは今巨大な湯船と同じ状態だ』
ソウイチロウさんがくれたヒント。
彼は今のこの状況が、巨大な湯船と同じだと言っている。
湯船、湯船には栓があるはず。
だが今のここには栓は存在しない。
まさか、ここの山の一角に穴を開けるのか。
確かにそれなら一か所から水を一気に流すことができる。
ボクはそう考え、マップチェンジで山の一部を元に戻そうとした。
『違う、ユカ。それだと一気に流れが変わって大惨事になってしまうぞ』
『ソウイチロウさん、それではどうすれば……』
『そうだな、でも一か所から穴を開けて水を一気に抜こうというのは正解だ。答えを教えてやる。マップチェンジスキルで巨大なワープ床を作り、そこから一気に水を外に出してしまうんだ』
『ワープ床? でもそんなことをすれば、冒険者ギルドの部屋が水浸しの滅茶苦茶になってしまうのでは……』
ワープ床は冒険者ギルドの部屋に通じている。
そこに水を流せば、確かにここは助かるが冒険者ギルドの町が壊滅だ。
『違う、ユカがやり方を知らないだけで、ワープ床は座標を入れ替えれば出口も変えられるんだ』
『え? ごめんなさい。ボクには意味がわからないです……』
『仕方ない、ユカ……緊急事態だ、少し身体の主導権を借りるぞっ!』
そう言うと、ソウイチロウさんは脳内から僕の身体を自由に動かし始めた。
ソウイチロウさんは走ってキャンプ設営地の山に囲まれた端に行くと、大きく手を広げた。
「目の前の地面をワープ床にチェンジ!」
そしてその直後、ソウイチロウさんは一人だけが通れる幅を山に作るとそのまま下の方に滑り降りた。




