460 ここでボクだけにできること
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ボク達は偵察部隊の人を見送り、野営の設営をしていた。
今いるだけで1500人オーバー、それにさらに海から来る応援が2000人以上はいるとい思われる。
幸いこの場所は広く、数千人は軽くテントに入れそうな場所だ。
ラガハース団長や冒険野郎Aチームのみんな、それに父さん達は全員で野営用のテントを設営している。
みんな手慣れたもので、ものの二十分くらいで次々とテントが建てられている。
ボクはそんなみんなのためにできることを考えた。
『ユカ、今ここにいる人達に必要なものは何だと思う?』
『ソウイチロウさん、今必要なのは食事じゃないですか?』
ボクはテントを作っている人達のために食事を用意する必要があると思った。
『まあそれも必要なことだけどな、お前だけができることがあるだろう。お前のスキルでできるのは何だ?』
『ボクのスキル……地面を自在に入れ替える力……水の確保ですか!』
「半分正解だが、それじゃあスキルを使いこなせてるとは言えないよな」
『それでは何を……』
ソウイチロウさんはボクのスキルで何ができると言っているのだろうか。
『すみません、ソウイチロウさん。ボクには思いつかないので教えてください』
『そうか、少し難しかったかな。いや、私が日本人だから思いつくことであっても、この世界の人達にはすぐには思いつかなかったかもしれないな』
ソウイチロウさんには思いつくけど、ボクだけでなく、この世界の人にはあまり思いつかないこと、それは一体何なのだろうか?
『ソウイチロウさん、そろそろ教えてください』
『あ、ああ。もったいぶって悪かったな。ユカのスキルならここに温泉を作るのは簡単にできるだろう、疲れた人達の癒しになるように風呂を作ってやるのはユカにしかできないスキルだって言いたかったんだよ』
なるほど、確かにそれはボクにはすぐには思いつかない。
ソウイチロウさんはこの場所にボクのスキルで風呂を作れと言っている。
確かに長い間移動してきた兵士達やずっとこの南方で戦っていた父さん達はかなり疲れているはずだ。
エリアさんがレザレクションのスキルでみんなの体は癒してくれたが、精神的な疲労はまだ残っているかもしれない。
この場所は大きく広い場所があるので、温泉を作るのは簡単にできることで、それでいてボクのスキルでしかできないことだ。
ソウイチロウさんは流石長年の経験があると言える。
ボクにはすぐに思いつかないことをすぐに指摘してきたのだから。
ボクはテント設営場所から少し離れた誰もいない広い場所に一人で向かい、何もない広場に片手を広げて叫んだ。
「ボクの目の前の土地を大きな温泉にチェンジ‼」
ボクの手から放たれた魔力は、目の前の土地を一瞬で温泉に変えてしまった。
「やった、これでみんなに温泉に入ってもらえる」
ボクはテント設営を終わらせた兵士や騎士団、父さん達の所に戻った。
「ユカ、仕事をしないで一人でどこに行ってたんだ?」
「父さん、ボクはボクのできることをしてたんです、みんなでこっちに来てください」
ボクは少し怒っていた父さん達をなだめながらテントの外れに付いてきてもらった。
「何だこれは!」
「信じられない、こんな場所にはこんな広い泉は無かったはず……」
「この泉……温かい、これは温泉だ!」
父さん達は何もないはずの場所にいきなり出現した温泉に驚いていた。
「父さん、実はこれがボクのスキルなんだ」
「ユカ、お前のスキルって……温泉を掘る力だったのか⁇」
父さんは何か勘違いしてしまっているようだ。
まあ、今はそれを説明するよりは、温泉を楽しんでもらおう。
「正しくは違うんだけどね。みんな、どうぞ疲れた体を癒してください」
ボクの作った温泉は疲れ切っていた兵士達にとって何よりの癒しになっていた。




