458 海上の大魔女
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キマイラ数頭にマンティコア、それにゴブリンだのコボルトだの。
コイツらはどう見ても主力部隊ではない。
それなら主力部隊を呼ばれる前に全部ここで倒せば増援は来ない。
武士団と船員達が協力したことでマンティコアは全滅、コボルトとゴブリンも数える程度になっている。
厄介なモンスターはキマイラ二体だけだ。
「まいったねー、まさかモンスターの襲撃を受けるとはねー」
「カイリ、一匹はあーしがやるよぉ」
「マイル、頼んだぜー」
マイルもここにいる中ではオレと同じで一番の高レベルだ。
大海獣レッドオクトを倒した経験値でオレ達はレベル50以上といったところだ。
つまりはマイルも一人でキマイラを倒せるほどの強さだってこと。
「茨の呪縛」
マイルが植物を操るスキルでキマイラの全身を縛った。
「ちょっと壊れてるけど、これ使えるわぁ……これ借りるね」
マイルは壊れかけのバリスタの杭を蔓で絡め取った。
「さて、キッツイのプレゼントするわよぉ!」
マイルは絡め取ったバリスタ用の杭を蔓を自在に操り、長く伸ばした。
キマイラは必死の抵抗で火の玉を杭目掛けて撃った。
「そーれぇ!」
マイルの叩き込んだ杭はキマイラの火の玉の直撃を受けながら、燃え盛る杭になりそのままキマイラの胴体を串刺しにした。
「しまったぁ!」
マイルが叫ぶ。
確かにキマイラはぶっとい杭の直撃で一瞬にして絶命した。
だが、燃え盛る杭はキマイラの身体に燃え移り、それは一瞬にして巨大な炎になってしまった!
「カイリ、ゴメンっ……しくじったぁ」
「な、なんだってぇー!?」
オレが見ている目の前でキマイラは巨大な炊きつけになり、船に火は燃え広がろうとしている。
「くそぅ、これじゃー全部の船に火が燃え移ってしまうぜー‼」
オレは目の前のキマイラを相手にしているので火を消すことができない。
あれだけ火が燃え広がってしまっていると、船員たちはキマイラを海に叩き落とすこともできない。
マイルのスキルは植物を操る力なので、植物を操った瞬間引火して被害はさらに広まる。
絶体絶命ってのはこういうことか……。
この船はオレの宝、命ともいえる物だ。
その上ここで船を沈めたらユカ達に顔向けができない。
オレは今できることを考えた。
「とりあえずテメーは死んどけやぁー‼」
オレは目の前のキマイラを槍で大きくなぎ払い、空中に叩き上げる。
すると、舞い上げられたキマイラの身体が高いマストに叩きつけられ、ロープが絡みついた。
「ウラァーッッ!」
オレはマストを駆けのぼり、上空からキマイラを下に叩きつけた。
「ガギャゲェエエエエッッー!」
前半分と後ろ半分に身体を両断されたキマイラはそのまま死亡した。
「火はどうなっているんだよー!!」
「お頭、甲板はもう火の海です、このままでは別の船に燃え広がってしまうかと……」
オレはイチかバチかの賭けに出た。
「テメ―ら、その場を動くなよ。オレが火を止めてやるからよー」
オレは豪槍ポチョムキンを構え、身体の魔力を全て集めた。
「火で沈むのが先か、それとも大量の海水で船が沈むのが先か……やってみなきゃわかんないからなーっ‼」
オレはスキルを使い、荒れ狂う波を船に巻き上げることにした。
船員たちは海に落とされないようにマイルが蔓で全員絡めている。
だが、火は燃え広がる一方だ。
その上船に大量の海水が入ったことでオレのアトランティス号は沈没寸前になっている。
「くそぉー、ここまでかよー……」
オレに打つ手が無くなり、あきらめかけた時、嵐の中に立つ一人の姿が現れた。
一体誰なんだ……敵なのか? 味方なのか?
「フリーザーストーム!」
海の上に立っていた人影は、魔法を使い、オレの船の火炎を一瞬にして氷漬けにした。
「どうやら様子を見に来て正解だったようだねェ」
「その声は!」
オレ達の目の前に姿を現したのは、様子を見に来ていた大魔女エントラだった。




