456 船と船を繋ぐ鎖
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「でもよー、こんな荒れた海の上で船の行き来なんてできるのかよー」
「問題ありませぬ。飛龍武士団は常に実践に備え、これよりも荒天吹き荒れる高き山の上で日々訓練に励んでおります。落ちれば即……死亡、それに比べればこのような場所、小生達には何の問題にもなりませぬ」
リョウクウはオレのことを慕ってくれているミクニの三国王の一人だ。
だが彼女は飛龍武士団の団長でもある。
「大丈夫なんだな、念の為この鎖を持って行ってくれ。船と船を繋ぐ鎖だ。万が一海に落ちたとしてもこの鎖で引き上げてやるから絶対に手放すなよー!」
オレは船の錨用の大きな鎖をリョウクウと飛龍武士団に手渡した。
「これを持って行ったら、今度はその船をこの船とを括り付けるんだ。そうすればこの大荒れの海でも船が単品で転覆する事は無くなるからなー」
「承知致しました。カイリ様、必ずや成し遂げて見せます!」
リョウクウは深く頭を下げると、鎖を手に抱え、別の船に飛龍と飛んだ。
「頼んだぜー」
本来船は目視できる距離に存在する。
だが今のこの大荒れの天気では、すぐ前の船があるのかどうかすら見えないほどだ。
飛龍武士団はそんな大荒れの天気にもかかわらず、重い鎧を身に付けてそれぞれが別の船に向かった。
「お頭、大丈夫っすか」
「バカヤロー! 人の心配してる暇があるならテメーの心配をしろー。もし船から落ちたら誰がテメーを助けると思ってるんだよー」
今は人の心配をしているような場合ではない。
このあまりの酷い海の荒れようにオレの心まで荒れている。
普段ならここまでひどい危機になるような船旅は今までそうなかった。
この海はオレのスキルがまるで通用しない。
オレがスキルで波を穏やかにしようとしても……穏やかになった瞬間、再び大荒れが始まってしまう。
この海に一人残すのは自殺行為なので、子鯨のハーマンも今はオレの船に避難しているくらいだ。
だがこんな海の上でリョウクウ達飛龍武士団は、船と船を繋ぐ鎖を渡す為に前の見えない空を飛んでいる。
それならオレ達はこの船が沈まないように自分達のできることをするだけだ。
そして二時間が過ぎた頃、上空から飛龍が帰ってきた。
「ランザン! それにリョウクウか!」
「はい、少し時間はかかりましたが全ての船に鎖を手渡すことができました」
船には錨を下ろす為の鎖が間違いなく置かれている。
その鎖を錨ごと別の船に持って行く事で、船と船を繋いだ。
これで今度はオレ達の出番だ、オレは船員と乗船している武士団達を甲板に呼べるだけ呼んだ。
「テメ―ら、この鎖を引っ張れ、船と船がぶつかるくらい強く引っ張るんだー!」
「「「アイアイサー!」」」
「「「了解!」」」
武士団と船員は全員が船の鎖を思いっきり引っ張った。
ゴシャアン!
凄い音が響く、船と船がぶつかった音だ。
後でしっかり修理しないといけないが、今はそれどころじゃない。
船と船を全部繋ぐことで巨大な一層の船のようにするってわけだ。
だがこの作戦に穴が無いわけじゃない。
これだけの船が密集した状態で火を使うモンスターに襲われたら大惨事だ。
しかし今はそんな危険を考えるより、全部の船を一つにする方が先決だ。
「船と船は繋げたかー!」
「はい、お頭。もう隣の船は動かないっす」
「おう、よくやってくれたなー」
これで一安心……と言いたい所だったが、事態はそううまくは進まないようだ。
「ケケケケェー! 人間だ、人間がいるぞー!!」
「っくそー、やはりモンスターがいやがったか」
モンスターは口から火の玉を吐いてきた。
マズい、このまま火が船に燃え広がったら最悪の結果になってしまう‼
「デヤァー!」
オレは豪槍ポチョムキンで飛んできた火の玉をモンスターに打ち返した。
「ギャゲェエー‼」
モンスターが火の玉に包まれて海に墜落し、そのまま海に飲み込まれた。
だが、モンスターの数はまだまだ残っている。




