455 海上の異変
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オレ達は今船で南方に向かっている。
数にすると船だけで二十隻から三十隻はいる大船団だと言えるだろう。
オレの船には八百人、それに交代で休む飛龍武士団も合わせると一人当たりの使える場所はほとんどない、芋を洗うような状態だ。
まだリバテアを出た時点ではそれなりに空きスペースはあった。
それはホームとルーム達、つまりはフランベルジュ領の兵士達も全員乗る予定だったのが、レジデンス領の西の漁村で落ち合うことになったからだ。
そのフランベルジュ領の兵士達に加え、レジデンス領のゴーティ伯爵とその部下達も三千人追加ときたもんだ。
これは想定外だったが、魔族の大軍勢と戦うことを考えると嬉しい誤算と言ってもいいのかもしれない。
今は一人でも多くの塀が必要な状況だ。
総勢五千人以上!
これだけの大軍団だ、船を動かすにはそれなりの腕がないと船が山に登ってしまう。
つまりは座礁して救出なんてしていた日には、予定外の行動で決戦に間に合わない恐れもあるということ。
だが、普通ならそれで躊躇してしまうだろうが、オレはスキル『潮流自在』が使える。
これは流れのある水をオレの思いのままに向きを変えることができるスキルだ。
このスキルがあれば、オレなら小さな小船だけでも遭難せずにどこにでも行ける自信がある。
「海のことならおれに任せなー!」
「アイアイサー!」
オレは部下達を励まし、船を南方に向かわせた。
オレのスキルで潮の流れは自在だ。
そのおかげで中サイズや大サイズの漁船でも特に何の問題も無く船は航行できている。
幸い今の所、モンスターと言ったモンスターは出現していない。
まあもし何かが出たとしても大海獣レッドオクトを倒したオレ達の敵ではないがな。
「お頭! 前方を見てください!」
「あー? 何かあったのかよー」
この海域は比較的穏やかな海だ。
凶悪な怪物が出るわけでもなければ、海の難所と言われるような霧や藻の群生地でも無い。
そんな海で何の異変があるのだろうか。
オレはマイルに手渡してもらった双眼鏡を覗いた。
「なんじゃありゃーっ‼」
オレは遠方を見て思わず叫んでしまった。
大抵の海の異変なら想定内のオレが思わず叫ぶレベルのこと。
それは……遥か先の方の南方の奥で何度も強烈な突風や雷、轟炎が巻き起こっている天変地異だった。
「お頭、ひょっとしてこの世の終わりなんでしょうか?」
「バカヤロー! 怖気づくんじゃねー! それでもテメーは海の男か⁉」
だが本音オレもあんなものを見たのは初めてだ。
いや、以前ルームの使った魔法はあんな感じだったかもしれない。
だが今はルームがあんな場所にいるとは思えないだろう。
そう考えると……オレは物凄く嫌な予想をした。
「アレが、魔将軍の力ってやつなのかよー……」
もしあの天変地異を起こしているのが魔将軍だとすると、敵の魔力は生半可なものじゃない。
現に、オレのスキルで潮の流れは自在に出来ているはずなのに、それを上回るだけの大荒れが海面で起こっている。
こんな大しけはあの大海獣レッドオクトとの闘い以来だ。
天変地異の起こっているのは、オレの目では確認できないほど双眼鏡でようやく見える南方の遥か先のことだ。
だがそんな離れた場所からこの海が大荒れということは、陸地もタダでは済まないほどの荒天になっている可能性がある。
「マズいことになったなー……」
「カイリ、とりあえず船をみんな密集させた方が良いんじゃない?」
「ああ、それもありだなー」
オレはこの大荒れの海を乗り越えるための方法を考えた。
それは、船を全て鎖でつなぎ、一つの巨大な船のような形にすることだった。
「カイリ様、船との行き来は小生達が適任かと!」
「リョウクウ、いいのかよー?」
「はい、どうぞお任せ下さいませ!」
どうやら、船と船の行き来をリョウクウの飛龍武士団が受け持ってくれるらしい。




