44 到着、インクリヴィズ城
『六公四民』この国の大半はこれが税収の基本になっているそうだ。しかし、領主によってはこの基礎部分以外を好きにできる裁量があるらしい。悪用すれば全ての財産を搾取する事も可能なシステムである。現にヘクタール男爵領は聞いた話だとこれを相当悪用しているらしいのだ。
だが、ゴーティ伯爵の収めるこの辺りは『八公二民』である。つまりは国や地域が全体の税収の八割を持っていき、二割だけが民衆に残るシステムである。普通こんなものを聞いたらどう考えても悪領主の所業にしか聞こえないようなイカれた税収ともいえる。
しかし、私の住んでいる村を含め、誰一人としてゴーティ伯爵に不満を持つ人はいない。それはなぜかと言うと、ゴーティ伯爵の徴収した税金は正しく使われ、還元されているからなのである。現に、この国ではほとんど行き倒れや盗賊等が出没する事が無かった。
何故なら税収は高くても個人負担の住民税は無料、食料が困窮することなく伯爵自らが各村々に視察で赴き、災害等で備蓄の足りない村には全体から集めた税収の一部を分け与えていた為である。これはある意味の現代日本での保険のようなシステムと言えるであろう。
このように社会的システムの構築に多額の金額をかけている代わりに住民の負担を出来る限り個人消費を少なくする事でゴーティ伯爵の領地では自己責任の個人負担が殆ど無い。また、教育に力を入れているのもあり、子供たちの学費はタダ、更に医療費は伯爵が負担する事で住民達は無償で医療を受けられるのだ。
「今年の収穫祭はいつ行う予定ですか?」
「ホーム様、予定では次の満月の夜になると思われます。それまでに盗賊とモンスターをどうにかお願い致します」
「安心してください! 冒険者ギルドで依頼してオーガースレイヤーのユカさんに来てもらいました! 彼なら盗賊やモンスターくらいすぐ倒せますよ!!」
……なんだか期待が随分と大きくなっているようである。まあオーガーや遺跡の魔神に比べればそんなモンスターなんて今の私にはザコ同然であるのは事実だ。
「ボクが『ユカ・カーサ』です。皆さん……まあ、出来るだけの事はやってみます」
「カーサ! あの100体斬りのウォールさんの息子なら安心じゃ! ワシらは皆さんが帰ってくるまでに盛大な収穫祭の準備をさせていただきますじゃ」
「はい! モンスターと盗賊退治はボク達に任せてください!」
私達は住民達の手厚い歓迎を受けた後、ゴーティ伯爵の待つインクリヴィズ城に到着した。
「僕はホーム・レジデンスである! 今帰還した、門を開けよ!」
「はっ! ホーム様、ルーム様、お帰りなさいませ!」
ホームが号令をかけると重く大きな城門がゆっくりと開いた。そして私達は大ホールに到着した。
「お帰りなさいませ、ホーム様、ルーム様」
「バスティアン。ただいま」
このバスティアンという人物はいかにもといった執事そのものである。初老の白髪にモノクル眼鏡、こういうキャラは大抵格闘戦にも強く、博識でもある。
「奥の応接の間で旦那様がお待ちです。皆様、こちらでお召し替えを」
「ささっ、お嬢様方はこちらです」
流石は伯爵家である。メイドたちがずらっと横並びになり、エリア、マイルさん、ルームの三人は女性用のドレスルームに案内されていた。
◆
バスティアンさんに用意された上等の衣装に着替えた私はホームと共に応接室に向かった。そこで少し待っていると衣装替えを済ませたエリア、マイルさん、ルームの三人がとても綺麗なドレス姿で現れた。
「か……可愛い。綺麗だ」
三者三様、ドレスを着た美女と美少女は誰もが誰も目が釘付けになるくらい美しい姿で衣装と本人の素材がとてもよくマッチしていた。
「皆様、旦那様がお待ちです」
そして私達はゴーティ・レジデンス伯爵の待つ応接の間に入った。