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447 魔族の武人

 呪いの魔剣は持ち主に絶大な力と破滅をもたらす。

 この剣を手にした者は比類なき力を手に入れることができるのだ。

 貴族の息子はその呪われた剣を手にしたことで痛みを知らずに戦う狂戦士(バーサーカー)と化した。


 今の彼なら一国の騎士団数百人すら一瞬で倒せるであろう。


 だが、その一撃を受けながら、魔将軍パンデモニウムは全くの無傷だった。


「弱い、弱すぎる! 所詮は武器を与えたところで人間の脆弱な力では(それがし)に傷一つ与えられぬか」


 パンデモニウムは、なおも己の首を切り落とそうとする狂戦士(バーサーカー)の剣を首に受けながら嘆いていた。


「もういい、期待外れだった」

「ゲェェ? キケケェェエエ⁉」


 人間であることをやめた狂戦士(バーサーカー)は剣で斬り落とせない首に戸惑っている。

 そしてパンデモニウムは獣のような剛腕で呪いの剣の刀身を直に握った。


「ぬんっ!」


 パキイイィン!


 軽い音を立てながら小枝が折れるように呪われた魔剣が砕け散った。

 この剣は決して(なまくら)ではない。

 むしろSクラスの剣だと言えるだろう。


 Sクラスの剣、それは鋼も通さない強靭なドラゴンの鱗すら容易く斬れる強さの剣だ。

 だが、このパンデモニウムはその剣が通じないどころか、軽く握っただけで刀身を砕いたのだ。


「もうお前の顔も見飽きた。死ね」


 普段の大声とは全く違う小さな声でパンデモニウムは一言呟いた。


「ゲェ?」


 パンデモニウムは狂戦士(バーサーカー)の、呪いで強化された肉体を片手で持ち上げると、おもむろに引きちぎった。

 おびただしい流血が辺りに飛び散る!

 だがその色は赤ではなく、紫色になっていた。

 これは狂戦士(バーサーカー)が人間であることをやめた証拠だと言えるだろう。


 痛みを知らない狂戦士(バーサーカー)は何故か竦んでいた。

 それは生存本能で、このパンデモニウムという怪物には決して勝てないと感じたからなのだろう。


 パンデモニウムは持ち上げた狂戦士(バーサーカー)の肉体を両手で掴んだ。

 そして引きちぎった腕を別の手で持ち、それも同じように肉体に合わせた。


「おお、パンデモニウム様がアレを見せてくださるぞ!」

「アレを見れるとは、今日は運がいい!」

「「「「パンデモニウム! パンデモニウム!」」」


 魔族達は何か期待をしているようだ。

 その期待に応えるかのようにパンデモニウムは狂戦士(バーサーカー)の肉体を両手で左右から押しつぶした。


 ベギベギャグギョバキ……グチャァ。


 肉塊と骨を押しつぶす不快な音が辺りに響く。

 そして狂戦士(バーサーカー)だった肉塊は巨大な団子状になり、パンデモニウムは砕いたその肉塊から流れ出る大量の紫の血を飲みだした。


「グハハハハハ、戦いの後は血で喉を潤すに限るわ!」


 魔族達は皆がこの光景に興奮していた。

 中には感動のあまり泣き出す者もいるくらいだ。


 魔将軍パンデモニウムはその強さとパフォーマンスゆえ、魔族達に一番人気のある魔将軍なのである。

 彼は強者の殺戮を娯楽として見せることで、軍勢の士気を高めているのだ。


(それがし)は何者の挑戦も受けよう! それは人間、魔族、その他の者なんでもありだ。戦場に差別はない、あるのは勝者の栄光と敗者の屍だけだ!」


 パンデモニウムは大声で満足そうに叫んだ。

 魔族達にとってこれは最高のエンターテイメントだと言えよう。


 だがパンデモニウムはただの戦闘狂ではない。

 彼は部下に命じ、捕らえられていた人間達を入れた檻を用意させた。


 そしてその檻を手で引きちぎり、砕いて見せた。


「さあ、捕らえられていた者達よ、どこへなりと行くがよい。ここにいる魔族にはお前達に手出しをさせぬように言っておる」

「お、おお……何故わたしたちを助けてくれるのですか?」


 パンデモニウムは笑いながら言った。


「弱い者を殺しても何の面白みも無い。それならせめて強者になれるまで努力するか、さもなければ強者のために尽くして生きればよい」


 捕らえられた人間達はその大半が奴隷だった。

 彼らはどこにも行かず、この場に残ることを選んだ。


「わたしたちには行くところも帰るところもありません。それなら貴方様のためにどうか働かせてください」

「そうか、よかろう。人間どもよ、せいぜい仕事に励むがよい」


 豪放磊落、それこそが魔将軍パンデモニウムを表現するのに一番ピッタリな言葉だった。

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