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445 嵐の前の静けさ

 父さんとボク達はラガハース騎士団長に用意してもらった食料を使って料理を作った。

 肉、野菜のたくさん入って煮込まれたシチューは、ホームの作る味とは少し違ったが美味しいものだった。

 焼いただけの肉は双子の狼も喜んで食べている。


「久々に人間らしい食事をする事ができたよ」

「父さん、今まで何を食べてたの?」

「そうだな、この辺りに出現するモンスター、その中でも動物に近い種類のものを狩ってどうにか食べていたな」


 この辺りに出没するモンスターは、C級冒険者ではとても太刀打ちできないレベルのものばかり。

 しかし父さんはそれを倒して食べていたというのだ。


「そ、それは大変だったんだね」

「まあな、でもまあオレは昔冒険者をしていたことがあるからな、モンスターの料理は母さんよりも美味いの作れるぜ」


 そうだ、父さんは昔凄腕の冒険者だったんだ。


「ウォールよ、あのオークの丸焼きから腕は上がったのか?」

「オイオイオイ、いつの話してんだよ。そんなのオレがまだ駆け出しのころの話だろうが」

「ハハハ、確かにな。あの時ウィンドウが目を丸くしていたよな、まだお嬢様丸出しだったし……」

「今の姿見たらビックリするぜ、そのお嬢様が今や巨大な包丁で牛を真っ二つにするんだからよ」


 ボクは確かに母さんのその姿を見たことがある。


「おいおい、どう考えても冗談だろ、あの可憐なお嬢様がどうやったらそんなバーバリアンになるんだよ」

「あーあ、今度言っておいてやるよ。ハンイバルがお前のことをバーバリアンだと言っていたって」

「勘弁してくれ、そんな事言ったら俺がひき肉にされて氷漬けにされてしまう」

「勿論冗談だ。そんなことできるわけないだろ」


 いや、本当のことなんだけど。

 でも今考えると、包丁を使ったように見えたのは、本当は風の魔法で切り刻んでいたのかもしれない。


「まあこの戦いが終わったら久々に家に寄ってくれよ。歓迎するぜ」

「そうだな、そのためにもこの魔族の大軍との決戦を終わらせないと」


 ここにいるのはボク達以外にも国境警備隊200人、帝国騎士団1300人、それに冒険野郎Aチーム、それと父さんにラガハース騎士団長。


 今いるだけで大体1500人くらいといったところだ。

 それ以外にもホームさん、ルームさん、それにカイリさんとマイルさん達が連れてくる予定の兵士達がどれだけになるか……この数次第で戦いの結果は決まる。


「無事全員が食事できたみたいだな」

「はい、ラガハース騎士団長、ありがとうございます」

「礼にはおよばん、腹が減っては戦は出来ぬとミクニの武士に昔教えてもらった。それを実践したまでのことだ」


 食事を終えたボク達は設営したテントでゆっくりと休むことができた。



 次の日、ボク達は大きな荒野の端の方に陣を構えることになった。

 ここでモンスターを迎え撃とうというのだろう。


「誰か、斥候になる者はいるか」

「はい、私がモンスターの様子を見てまいります」


 騎士団の団員の一人が、何かの筒を持って馬に乗った。


「何かあり次第、この発煙筒を焚きます」

「そうだな。お前は赤、青、黄、緑のそれぞれの使い方を覚えているか?」

「はい、赤は敵大軍遭遇、青は敵影見えず、黄色は若干名敵確認、緑は友軍、救護対象あり、以上です!」

「ご苦労、では頼むぞ!」

「はい、行って参ります!」


 団員は数名で馬を駆り、荒野の反対側の岩山の方を目指した。


「さて、ユカ様。我々も準備をしなくてはいけません」

「はい、ボク達もできることをします」


 ボクとラガハース団長が話をしている間に、アンさんと大魔女エントラ様が空に飛びあがった。


「さて、それじゃあ(わらわ)は西の方を見てくるかねェ」

「ではワシは海の方に近い東の方を見てくるわい」


 大魔女エントラ様はクリスタルドラゴンに乗り、アンさんは紫のドラゴンの姿になり、お互いが反対の方に飛んで行った。


 荒野の空気は、これからの大決戦を前に恐ろしいまでに静まり返っていた。

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