442 忘れていたスキル
海峡は広く、波が渦巻いている。
その上兵士達は鎧を着ていたり、大半が重装備だ。
そういう点を考えると、とてもではないが海を泳いで渡るのは自殺行為と言える。
しかし、この海峡を越えないことには南方の魔族の大軍と戦っていた父さん達の所に行くことはできない。
カイリさんやホームさん達は船で向こうに行けるのかもしれないが、今ここにいるラガハース団長達全員を送るには、船ではここからだと岸が高すぎて降りることもできない。
その上、魔族はこの場所に昔からかかっていた自然の橋ともいえる道を壊して通れなくしてしまっている。
「のう、ユカ坊。ワシが何往復すれば全員を渡すことができるのじゃ?」
アンさんはドラゴンの姿で空を飛べるので、全員を往復で南方の岸に届けようかと言ってくれている。
しかしそれをしたとしても、どれだけの数を運べるのかと言えば全員を渡すにはかなりの時間がかかってしまう……。
そう考えると、それも良い案だとは言えない。
「難しいな……アンさんに負担をかけるわけにもいかないし」
「それでは妾が海を凍らせてやろうかねェ。海の上を歩ければ全員向こうに行けるんだよねェ」
大魔女エントラ様が海を凍らせれば向こう岸に行けると言ってくれた。
しかしそれだと今度は海から南方を目指してくれているカイリさんやホームさん達の船が凍った海に阻まれて途中で動けなくなってしまう。
また、海のモンスターが大量に海の上に出てきたら、凍った海の上でモンスターと戦うことになってしまうので、それもまた難しい問題になってしまう。
「エントラ様、海を凍らせてしまうと今度は南方に船で向かってくれている味方が身動きできなくなってしまいます」
「そうかねェ。それではこれも無理だねェ」
ここにいる全員をモンスターの脅威にさらさずに、南方の岸に渡す方法。
そんなことができるとしたら、天変地異を操る神くらいのものだ。
神……ひょっとして創世神の半身だというエリアさんなら、何かできるかもしれない。
「エリアさん、どうにか全員を向こう岸に渡す方法、奇跡とかはないの?」
「ごめんなさいユカ、今の私にはそれだけの事ができる力はありません」
それならボクがアンさんに向こう岸に送ってもらい、ワープ床を作って冒険者ギルドの町から目的地に向かうなら。
これならボクの力なので誰かに無理をさせるわけでもない、これだ。
ボクは手を広げ、ワープ床をその場に作ろうとした。
『ちょっと待て、ユカ! それは止めろ』
『ソウイチロウさん、なぜ止めるんですか? これなら全員渡す事ができますよ』
『ちょっと考えてみろ、もしそのワープ床に万が一大量のモンスターが踏み込んできたらどうなる? 今から私達が向かうのは平和な場所ではなく大量のモンスターと戦う戦地なんだぞ』
確かに、ソウイチロウさんが言わなければボクは大量のモンスターを町にワープさせてしまうところだった。
『でもどうすれば……』
『ユカ、お前の持つ力は何だ? マップチェンジ、つまりは好きに地面を操る事ができる。時渡りの遺跡でお前が見せた力は何だ? あの力ならここにいる全員を向こう岸に渡すこともできるはずだぞ』
そうだ!
ボクの持つ力は地面を作り替える力。
それなら簡単に海の上に橋や道を作ることもできる!
何でボクは自分の持つスキルに気が付かなかったのだろう。
「みんな、ボクに任せてくれ。ボクは自身のスキルを思い出したんだ」
そう言ってボクは右手を橋の落ちた海に向かって広げた。
「目の前の橋と同じ物を向こう岸までマップチェンジ!」
「「「‼」」」
ボクのスキルで作った橋は、モンスターに落とされる前と同じ形になり、海の向こう岸までつなぐ巨大な道になった。
「これなら全員で踏み込める! 皆の者、某に続けっ!!」
これでようやく帝国騎士団全員が、南方に向かって進軍する事ができた。




