436 船の乗船率オーバー
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マイルは今まで我慢していたのを一気に吐き出すかのようにオレに今までのことを話した。
「聞いてるの? お兄ちゃん」
「お、おい、すまねーが……お兄ちゃんというのは勘弁してくれよ」
マイルが不敵な笑いをうかべた。
「えー、お兄ちゃんじゃ嫌なのぉ? それじゃぁねぇ、にいには?」
オイオイなんだその赤ちゃん言葉は。
「それも駄目? それじゃぁ、にーちゃん、兄さま、兄やん、ブラザー、あんちゃん、兄者、兄上様、どう呼べばいいのよぉ?」
「どれもダメだー! ダメなもんはダメなんだー!!」
「えー、お兄ちゃんのケチ」
結局呼び方はお兄ちゃんになってしまったようだ。
「わかったわかったー。お兄ちゃんでいいからよー、そのかわりその言い方は誰もいない時だけにしてくれー」
「えぇー、せっかくお兄ちゃんと言えるようになったのにぃー」
そう言うとマイルはオレの腕に腕を組んできた。
「この状態で外に出たら兄弟というよりも恋人に見えてしまうのかなぁ」
「オイバカよせやめろってよー。リョウクウが見たらどう思うってんだよー」
「あらぁ、リョウクウちゃんならもう知ってるわよぉ」
「え? それってどういうことだよー」
マイルは昨日思わずリョウクウと言い争いになった後、酒場でリョウクウと出くわし、そこでつい口を滑らせてしまったと言っていた。
「……。なるほど、ぜーんぶマイルが悪いってことじゃないのかー」
「ハ、ハハハ。そうなっちゃうかなぁ」
マイルは困り眉毛で引きつった笑いを見せた。
「ていっ!」
「いたぁーいっ! お兄ちゃん何すんのよぉー」
「てめーがロクな事しねーからだろーが!」
オレはマイルの頭に軽くチョップを決めた。
「プッ……ハハ、ハハハハ」
「何笑ってんのよぉ」
「いやな、確かによーく見るとマイルとオレって似てるのかもなーって」
「そうなんだ、他の人は気が付かなかったみたいだけどぉ」
オレは帽子を取ってみた。
普段は帽子と髪の毛で隠れているが、オレもよく見れば獣人と分かる耳だ。
「あ、ホントだぁ。あーしとそっくり」
「そうだなー、二人共、母さんに似たんだろうなー。マイル、母さんってどんな人だった?」
「そうねぇ。とてもキレイでいい人だったわよぉ」
まあ黙っていればマイルは間違いなく美人の内側に入る。
そのマイルが美人というくらいなのだから母さんは相当美人だったのだろう。
「さて、そろそろ外に出ないと、明日には出航できないぜー」
「そうねぇ。それじゃあ頑張ろうね、お兄ちゃん」
「外でお兄ちゃんとか言うんじゃねーぞ!」
「はぁーい、わかりました。お兄ちゃん」
マイルはわざとオレを煽っているようだ。
オレとマイルが二人で船長室から出ると、辺りには大量の人が増えていた。
「どうやらホームくんが兵士を大量に連れてきたみたいね」
「まいったなー、船の数もう一隻確保するしかなさそうだなー」
「ちょっとそれは厳しそうよぉ、今ある船用意するだけでもかなりいっぱいいっぱいだったんだからぁ」
ホームとルームがフランベルジュ領から連れてきた兵士の数は千以上だった。
これだけの人数を船に乗せるとなると、ミクニの武士団と合わせればもう乗船率は200%どころか300%になる勢いだ。
しかも兵士だけに全員が鎧を身に付けているので、船が重みに耐えきれずに沈んだりする危険性もある。
「おいてめーら、ホームはどこにいるんだー?」
「申し訳ありませんが、ホーム様は今席を外しております」
困ったもんだ。
この人数になると流石に船に全員乗せるわけにもいかなくなる。
「マイル、食料や備品はまだ切り詰めればどうにかなるだろうけどよー、船の中の人の重さはどうにもならないんだよなー」
「そうよねぇ。これじゃあ全員乗せるわけにはいかないわぁ」
オレ達が頭を悩ませているところに、血相を変えたホームが走ってきた。
一体何があったのだろうか。
「これはこれは、ホーム様。どうされましたか? 血相を変えて」
「隊長! 街中にいる皆を集めてくれ、至急だ!」
隊長に命令を出していたこのホームの焦りよう、どうやら何かがあったようだ。




