434 マイルとリョウクウ
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久々に会ったリョウクウは、凛とした中に女性の美しさを感じた。
オレが覚えているリョウクウはもっと男の子っぽい活発な男勝りだったが、しばらく見ない間に対した変化だ。
長い黒髪に鉢金を縛った彼女は生まれつき色白の顔にうっすらと唇の紅が映えてとても可憐だった。
「カイリ様、またお会いできてとても嬉しゅうございます」
リョウクウは人目もはばからず、鎧姿のいで立ちのまま俺に抱きついてきた。
武士団の連中がニヤニヤしながらオレとリョウクウを見ている。
こうなるともう、公然と言ってもいい状態だ。
そんなオレとリョウクウを少し厳しい目で見ていたのはマイルと飛龍のランザンだった。
というか、飛龍がよくあのサイズの光る床に入れたものだ、オレはそっちがビックリだった。
「カイリぃ、いちゃつくのは人のいない所でやってよねぇ」
「何だ、マイル殿は小生とカイリ様の関係に妬いておるのか?」
「バ、バカッ! そんなんじゃないわよぉっ!!」
顔を真っ赤にして反論しているマイルを見れば、オレとマイルの関係を知らない人が見たら実の兄妹とは思えないかもしれないな。
「リョウクウ、悪ふざけはその辺にしておくのだぞ」
「兄上、こここ、これはそんなのではっ」
流石のリョウクウも兄のリョウカイの前ではタジタジだ。
「しかしカイリよ、妻を二人娶るのはあまりいただけないな、止めろとは言わないが、関係を疎かにすればその災いは自身に降りかかるぞ」
ダメだ、コイツもマイルがオレのことを好きだと勘違いしているようだ。
これはいつかきちんと、腹を割って話をしないといけないな。
そんなオレ達の会話が聞こえたのか、マイルは顔を真っ赤にしながらふくれっ面でその場を離れようとしていた。
「オイ、マイル。どこに行こうってんだよー」
「どこでも良いでしょぉっ! アンタはリョウクウ様とイチャイチャしていればぁっ!!」
何だかマイルの機嫌がメチャクチャ悪かった。
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「バカバカバカバカ、お兄ちゃんのバカッ!」
私は胸のモヤモヤした気分がスッキリしないままその場を離れた。
確かにリョウクウさんはとても美人になっていた。
あのリョウクウさんならお兄ちゃんが好きになっても仕方がない。
でも、カイリが私の実の兄だと知っているのは彼と酒を飲みながら話していた子鯨のハーマンだけだ。
リョウクウ様は私がカイリのことを好きだと思っているのだろうか。
何だかそんなことを考えていたら、更にモヤモヤがひどくなったので私は酒場に行くことにした。
「いらっしゃい、ご注文は?」
「できるだけ強いの頂戴」
「はい、わかりました」
「小生にも一杯もらおうか」
この声は、リョウクウ様?
「邪魔するぞ」
「リョウクウ様ぁ、なんでこんなとこにぃ? お兄……カイリはどうしたのぉ?」
「カイリ様は今、船の出港準備をしている。ところで、兄とは?」
口が滑った、仕方ない……そして私は、リョウクウ様にカイリと私が実の兄妹だということを話した。
「ハッハッハッ、成程。マイル殿がカイリ様の妹君だったとは、これは失礼した。何だか小生もマイル殿の好きな男を奪ったような感じで少し心残りになっていたのだ」
「絶対誰にも言わないで下さいよぉ。カイリにもあーしが知ってるってのはぁ、黙ってるんだからぁ」
「勿論だ、約束しよう。しかし言われれば確かにマイル殿とカイリ様、似ていると言えば似ているな」
リョウクウ様はにこやかに笑いながら強い酒を一気にあおった。
「マイル殿、もしよければ今までの話とか聞かせてくれないか? 今日は朝まで飲もう」
「朝までぇっ!? ……まあ、いいけどぉ」
「決まりだ。御主人、こちらに先程の酒と魚料理、それに揚げ物を頼む」
「はい、かしこまりました」
その後、私とリョウクウ様は朝まで、今までの度の話をした。
次の日……二人共揃って二日酔いになったのは仕方のない話だった。




