433 食材調達とコックの確保
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港町でもある自由都市リバテアに到着したオレとマイルは、まずレストランに向かうことにした。
「こんなとこで食事してる場合じゃないでしょぉ!」
「まあそう言うなよー、コレ美味いぞ」
マイルの話し方はまるで、兄をたしなめる妹のような言い方だった。
まあ実際、マイルとオレは血のつながった兄妹なんだがな。
マイルがそれに気づいているのか気付いていないのかはまだオレには分からない。
「もー、こんなとこで時間無駄にしちゃダメなのにぃ。ユカ達頑張ってるんだよぉ」
「お、これもうめーじゃん、とりあえずこれなら塩漬けにして二週間は持つかな?」
「意味不明なはぐらかしをしないでぇ!」
実はオレはきちんと目的があってここに来ている。
ふくれっ面のマイルが何だか可愛いのであえて今はまだそれを言っていないが、オレがここに来たのは保存食をどうやって料理してもらえるかの実験のためだ。
「本当に意味がないと思ってるのかー?」
「意味無いでしょぉ! ただ食事してるだけじゃないっ!!」
「そう思うならなー、今食べてるものをよく見てみなー」
「今……食べてるもの? コレって……何の変哲もない魚の煮つけ……に煮た豆に肉のスープ、それに浸すための硬いパン……って」
マイルはようやくオレの意図に気が付いたようだ。
「もー、それならそうと早く言ってよぉ!」
「悪い悪い、お前がいつ気がつくのかなーって思ってなー」
「これって、全部保存食よねぇ。それをわざわざレストランで料理してもらってるってわけぇ?」
「その通りだぜー。ここに数日後には、ホーム達の引き連れた大量の戦士達が到着するはずだ。それをオレ達はそいつらを海路で輸送することになる。そうなるとまず問題になるのは食事のことだからなー」
そう、オレがこのレストランで頼んだ注文は保存用の食事をいかにどこまで美味しく料理してもらえるかの実験だった。
最低でも二千人以上は来ると考えて、船は最低五隻、食料は移動先での調達までに二週間分と考えている。
魚などは現地調達で済むかもしれないが、それだけで全員分の食料にするのは難しいだろう。
そういう点を考えると、保存食の確保は必須となるわけだ。
「まあ保存食でもぉ料理人次第でこんなに美味しくなるのねぇ」
「マイル様、お褒めいただきありがとうございます」
このレストランの現在の料理長はマクフライさんだ。
彼はマイルの商会のレストランで料理長をやっていた実績がある。
まあ俺の船にも船のコックはいるが、これほどの腕となると探すのも一苦労だ。
「あの、マイル様……もしよろしければですが、わたしを連れて行ってくれませんか?」
「え? えぇっ??」
「幸いレストランの方は人手が足りてますので家内が仕切れば十分成り立ちます。ですが船のコックを今から募集するとなると、結構大変かと」
「そういえばそうねぇ。わかったわぁ。マクフライさん、お願いできるぅ?」
「勿論です、わたしの仲間とポディション商会が嫌でこちらに来たコックを合わせれば、船の数のコックにはなるかと思います」
これは助かった、オレの船のコック、それにマクフライさん、後二人か三人いれば船の数とコックの数は足りることになる。
「決まりねぇ。それじゃぁあーしは食材の調達に行ってくるねぇ」
「ああ、それじゃあこっちは船に必要な備品を集めておくぜー、請求は全部ディスタンス商会に回しておくからなー」
「あまり高すぎる変なものだったら怒るからねぇっ!」
やっぱりあの言い方は妹が兄に言う言い方だ。
ひょっとしてマイルはオレが本当の兄だと気が付いているのかもしれない。
そうこうしているうちに二日が過ぎ、船と食料、それに備品の調達はほぼ完了した。
そこに到着したのは、大量のミクニからの武士団だった。
その中には彼女の姿もあった。
「カイリ様、お久しぶりでございます」
「その声……お前、リョウクウちゃんか?」
「はい、カイリ様。お会いしとうございました」




