431 取り返しのつくミス
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父上の軍勢は既に準備完了していて、千人以上の兵士が城の入り口の広場に結集していた。
「ユカ様が数日前来られましてね、その時南方の魔族の大軍の話を聞いていたのですよ。私はその話を聞いた直後、領内の有志を集めてここに結集させたわけです。今いるのはコレだけですが、船が到着する予定の一週間後には領地の外れの漁村にこの倍以上が集結する予定ですよ」
「父上、それはどういう意味で?」
「そのままの意味ですよ。確かにユカ様には不思議な能力があります。その力のおかげで瞬時に移動できることは存じておりますよ。ですが、それで移動した先からわざわざ船で移動するとなると、それだけ軍備や備蓄に金がかかることになります。それを考えると、船が移動してきた時点で合流する方が備蓄や予算に無駄が出ないということです」
さすがは元騎士団長の父上だ。
僕は軍勢を集めることだけしか考えていなかった。しかし、移動距離的なものを考えると、確かにこのレジデンス領や、フランベルジュ領から見たら、リバテアで全員が船で移動するよりは……一週間かかっても陸路で漁村まで向かい、そこから船に乗った方が士気も落ちない上、費用や糧食は少なくて済む。
「僕が……未熟でした」
「いいえ、ホーム。それはそれでよくやりました。流石は私の息子、遠方の国の王にも大勢の軍勢の要請を頼み、引き受けてもらえたのですね。よく頑張ったと褒めてあげましょう」
僕は複雑な心境だった。
「父上、僕は一度リバテアに戻り、兵を引き連れてからフランベルジュ領から父上の領地の東外れにある漁村に向かうことにします」
「わかりました、それでは一週間後、漁村で落ち合いましょう」
「父上、もしや……父上もこの戦いに参加されるのですか?」
「そうです。これは人類と魔族の生存をかけた戦い。私も当然戦いますよ。今……帝国最強のパレス大将軍にも救援を要請しているところです」
そう言うと父上は馬にまたがり、軍勢を引き連れて移動を開始した。
「ホーム、ルーム、それでは一週間後、漁村でお会いしましょう」
「わかりました、父上。ご武運をお祈りしています!」
僕達の見送る中、父上は大勢の軍隊を引きつれ、街道を進軍した。
「ルーム、急いで戻るよ。僕達も移動ルートを変更しないと」
「承知致しましたわ。早く戻りましょう!」
僕とルームは城の物置小屋から再び自由都市リバテアに移動した。
「これはこれは、ホーム様。どうされましたか? 血相を変えて」
「隊長! 街中にいる皆を集めてくれ、至急だ!」
「承知致しました」
それから一時間後、街中に散らばっていたフランベルジュ領の兵士達が集結した。
「すまない、皆……僕の采配ミスだ。今から一度全員でフランベルジュ領に戻る。僕達はこれから陸路でレジデンス領の東の外れにある漁村に向かう。僕のせいでみんなを振りまわして済まなかった……」
僕は集結した兵士達に向かい、深々と頭を下げた。
「ホーム様、大丈夫です! おれたちはホーム様を信頼していますから!」
「采配ミスって言ったって、単に移動ルート間違えただけだろ、まだ誰もケガしてないし」
「まあ早いうちで良かったじゃん、オレ船苦手なんだよなー」
兵士達は誰も怒っていなかった。
「すまない、皆」
僕は再び頭を深く下げた。
そして僕は船の準備をしていたカイリさんの所に行き、事のいきさつを説明した。
「よう、ホームにルームちゃん。すると、おめーらはここからは船に乗らないってわけだなー」
「はい、カイリさん。すみません」
「気にすんなってー、その分詰める食料や物資が増えるんだからよー。こっちとしてはむしろ助かったと言いたいくらいだぜー。いくら船を用意すると言っても数に限りがあるからなー」
「そうねぇ。まあミクニの武士団全員と食料、それに備品と積んだら結構な量になるのよねぇ。ユカ達ももうすぐ戻ってくるだろうしぃ」
カイリさんとマイルさんは僕達が兵士や武士達を集めている間、商会フル稼働で備蓄と食料を集めてくれていた。




