430 父上への要請
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兵士達の選別で残ったのは集まった全体の四割弱だった。
「この戦い、生きて帰れる保証はない。それは僕も同じだ! 僕は後ろに座って指揮をするだけの指揮官ではない、僕はグランド帝国元騎士団長ゴーティ・レジデンスの息子、ホーム・レジデンスだ!」
「「「オオオオォォ―!!」」」
残った男達は全員覚悟のある人達だ。
「僕達の敵は数千、数万の魔族の大軍勢。今ミクニの武士団がリバテアに集結している。今から僕達もそこに向かう、皆、僕に力を貸してくれ!!」
僕の呼びかけに対し、残った男達は全員が高く拳を突き上げた。
これは昔からのこの地域の風習なのだろう。
そしてこの場に残った男達一人一人に武器防具が手渡された。
かつてここの領主だった悪徳貴族ヘクタールは、自身の身を守るために軍備には相当力を入れていたらしい。
怪我の功名と言うべきか、ヘクタールの貯えていた武器防具はここに残った男達全員に行き届いた。
「皆、これから僕達は自由都市リバテアに向かう。僕に付いてきてくれ」
そして僕は領主の館の僕の部屋に向かった。
当然と言えば当然だが、兵士達はほぼ全員がなぜこんな場所に来ているのかが不思議そうだった。
一部の疑問を持たなかった兵士は、領主の部屋で書類を何か手渡されると思ったのだろう。
僕は自分の使っている部屋を開け、兵士達に光る床を見せた。
「これは救世主ユカ様の起こした奇跡で作られた光る床だ。ここに踏み込むと瞬時に別の場所に移動する。皆、僕に続け!」
「皆様が迷わないように私がエスコート致しますわ」
ルームは冒険者ギルドの町の部屋に残った。
そして僕は最初の兵士を連れてワープ床でリバテアに移動した。
「凄い! 本当に一瞬で移動した……」
「これは奇跡なのか?」
「信じられん、これがユカ様のお力……」
リバテアに到着した兵士達に対し、僕は大灯台前の大広場に集まるように命令した。
そして一人、また一人と兵士達がリバテアに到着し、一時間少しで全員が集結した。
「皆、ここからはミクニの武士団や、父上の騎士団と一緒になる。くれぐれもトラブルを起こさないように頼む」
「わかりました!」
隊長が代表して僕に返事をした。
これでミクニの武士団、フランベルジュ領の有志が集まった。
リバテアの兵士団はもう既にカイリさん達と一緒に行動中で、後必要な軍勢は父上に協力を頼む形になるだろう。
「ホーム様、全員到着しました!」
「わかった、ここの領主には僕が話をしておく、皆はそれまで自由行動とする!」
「はい、かしこまりました」
今リバテアの街はミクニの武士団と自警団、それにフランベルジュ領の兵士までもが集結し、街中のあちこちに姿が見られる。
こんな所で盗みや喧嘩をしようものならすぐに他の兵士に捕まるので物々しいが治安は普段以上に保たれていると言えるだろう。
さて、次に向かうのは父上の治めるレジデンス伯爵領だ。
「ルーム、ここは隊長に任せて、僕達は父上の所に行くよ!」
「了解ですわ!」
僕とルームは一度冒険者ギルドの町の部屋に移動し、そこから父上の城に移動した。
「ぺっぺっぺ……いつ来てもここは埃臭くて嫌な場所ですわ」
「ルーム、今度戻ってきたらここ掃除しようか」
「そうですわね、生きて戻ること前提ですわね」
僕とルームは城の中に入り、父上の部屋に向かった。
しかし、そこには父上の姿はなかった。
「あれ? 父上はどちらにおられるのでしょうか?」
「また村に視察に行ってたとしていたら、少し待つしかないですわね」
僕達が父上の部屋を出て廊下を歩いていると、城の入り口の大広場に大量の人の声が聞こえた。
「え? まさか……父上はもうすでに」
「みたいですわね、もう準備できていたというのですか。流石はお父様ですわ」
僕とルームが城の外の大広場に行くと、そこには千人を超す武器防具を身に付けた兵士達が勢ぞろいしていた。
「これは、ホームにルーム、よく戻ってきましたね。もう準備はできておりますよ」
これは……父上はもう既に兵隊を結集済みだった。




