429 兵士達の選別
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領主の館に戻った僕は領民に歓迎された。
「ルーム様、お帰りなさいませ!」
「よくお戻りになられました。今晩は盛大に料理を振舞わせていただきます」
僕が少し離れている間、ここの統治はアマニュエに任せていた。
彼は僕のいない間に、備蓄を少しずつ貯えていた。
これは父上の師匠であるボルケーノ大臣の教えだ。
いざという時のために備える、このことによって飢饉や戦時中にも領民が飢えることの無いようにするのだ。
「アマニュエ、久しぶりだね。元気だったか?」
「はい、私どもはホーム様やユカ様達がいつお戻りになられてもいいように日々準備しておりました」
「それは助かるよ、実は緊急事態が起きるんだ」
「はて、起きるとは……どういったことでしょうか?」
僕はアマニュエに南方から魔族の大軍が攻めてくることを話した。
その上でカンポ村では食材の提供をお願いしたことも伝えた。
「なるほど、よくわかりました。それで……何を提供すればいいのでしょうか」
「兵隊と、備蓄の両方を頼む。ただし、強制はしないでくれ、あくまでも本人の自由意思であって、拒むものには無理強いさせたくない」
強制徴用は、その場では良くても後々必ずほころびが見える。
それは領主と領民の間に溝を作ってしまい、お互いのためにならない。
「承知致しました。それではどのようにお伝えすればよろしいでしょうか?」
「兵士に対しては僕が話す。アマニュエは兵士になってもいいという人たちを集めてくれ。身分は問わない。難民や獣人でも問題はない」
「承知致しました。そのように手配いたします。本日は久々の御帰還、ご馳走を用意致しますのでどうぞお召し上がりください」
「ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ」
その日の夜、僕とルームの二人は領主の館で盛大なパーティーを開いてもらった。
後でアマニュエに聞いたところ、このパーティーで使った食材は備蓄のほんの一部だと聞いて僕は安心した。
主人の帰還に合わせてわざわざ足りないものを急ごしらえで用意してパーティーをされても嬉しいと思わないことをアマニュエは理解してくれていたらしい。
翌日、近隣の村々に僕の名前で兵士を募集することが伝えられた。
そして集まった兵士志望者の数は、なんと数千に及んだ。
流石に武器防具が足りない。
それに全部の兵士を連れていけるほど、余裕がない。
僕は仕方なく、兵士志望者達を選別することにした。
騎士や元々からの兵役についている者は別に並ばせることにした。
「皆、よく集まってくれた。今から戦地に向かう前に聞いておく事がある。この中で配偶者のいるもの、恋人のいる者は手を上げてくれ」
兵士の中の四割ほどが手を上げた。
「ご苦労だった、お前達は帰っていいぞ」
「何故ですか!! オレ達では力不足だというのですか!?」
「違う、この戦いは熾烈なものになる。生きて帰れる保証がない戦いだ。これは人間と魔族の生存をかけた最大の決戦になるだろう。そんな戦いに死んで悲しむ者達のいるような者を連れていけると思うか」
「むしろそれだからこそ、愛する人を守るためにオレ達は戦うんだ!」
ここにいる男達の決意は固い。
だが僕は心を鬼にして言った。
「黙れ! これは領主代行としての命令だ、今手を上げた者は全員帰れ。ここに留まることを許さん」
男達は不本意ながらも次々に帰っていった。
これも仕方がないことだ、彼等がいなければ男手の足りない領地はあっという間に廃れてしまう。
それで大勢が飢え苦しむことになるくらいなら、僕が悪者になるほうがいい。
「お兄様……」
ルームはボクを心配してくれている。
しかしこれは誰かがやらなければいけないことなのだ。
「今ここに残っている者の中で年老いた父母のいる者は手を上げろ! ここに残りたいからと嘘をついた者は後でどちらにせよ追放する!」
残った男達の三割ほどが手を上げた。
「ご苦労だった、お前達も親元に帰るがいい。ここに残ることは許さん」
この戦いに連れて行けるのは、身寄りのない、本人の覚悟の決まった者だけなのだ。




