428 腹が減っては戦ができぬ
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フランベルジュ領のカンポ村に到着した僕はビックリしてしまった。
「こ、ここがあのカンポ村??」
「随分と立派になりましたわね」
カンポ村は元々ヘクタール男爵の手下だった悪徳代官カンポの治めていた村だ。
しかしユカ様や僕達が悪徳代官のカンポを退治したことで、この村は元村長さんの奥さんが治めるようになった。
それから数か月で、村の様子は大きく変わっていた。
水源をきちんと確保出来た村は、ユカ様の作った大きな池のおかげで水の豊かな村になり、農地にはたくさんの野菜が植わっていた。
「あ、ホーム様だ!」
「領主代行様、ようこそお越しくださいました」
村人達が僕のことをとても歓迎してくれた。
「さあ、村長さんの家にどうぞ、きっとお喜びになりますよ」
僕とルームは村の大きなカンポの木を見上げ、それから村長さんの待つ家に向かった。
◇
「ようこそお越しくださいました。領主代行様」
「こんにちは、村長さん。その後村の様子はいかがですか?」
「そうですわね。亡き主人の友人達のおかげでどうにか村としてやっていけています。今はどうにか食料のほうも私達で用意できるようになってきました。それまではカンポの貯えた私財を売ることでどうにか村の食料を手に入れていたのですが」
「そうなんですね、この村が無事で良かったです」
「ところで……ユカ様は一緒ではないのですか?」
「実は……」
僕は村長さんに南方から大量の魔族の大軍が押し寄せようとしていることを伝えた。
話を聞いた村長さんは驚き、そのあと少し残念そうな顔をしていた。
「申し訳ございませんが私共の村からは戦力を提供することは出来かねます。今男手が足りなくなると収穫も厳しくなってしまうのです……」
「村長さん、大丈夫ですよ。僕はここに兵を集めるために来たのではないのです。軍勢ならミクニの武士団や、フランベルジュ領の街に頼みますので」
「それでは……私共は何をすれば?」
僕はこの村に最初から戦力は期待していなかった。
「そうですね、後一か月かの間に食料をあるだけ集めてもらえますか? 支払いは領主の館に回して大丈夫です」
「食料……ですか。それでしたら可能ですが」
「はい、食料をお願いします。いくら軍勢が多くても食料が無ければ魔族の大軍と戦うことはできません。そのために大量の食料を集めるだけ集めてください」
「ですが、それでは輸送するのに時間が……」
村長さんは食べ物を集めるのはできるが、それが長持ちしないと言っているのだ。
「大丈夫です、貴女もエリア様とユカ様の奇跡を目の前で見ましたでしょう。あの力があれば食料を安全に届ける事ができるのです」
「!! そういえばそうでした。私はあの時、ユカ様とエリア様の奇跡を見せていただきました。……わかりました、それではこの村から提供できる食料をあるだけ集めておきます。期間は一か月で良いのでしょうか?」
「はい、出来れば二週間といいたいですが、集められるだけ集めてください」
話を聞いた村長さんは村に行き、村人達に語りかけた。
「村民の皆さん、救世主ユカ様が魔族の大軍と戦うために食料を必要としています。どうか少しでも多くの食料を確保してください。私達はユカ様に救われました。あのカンポの時の何も食べられなかった時を思い出せば、少しの食事を減らすことくらいなんてことはないはずです、どうかご協力をお願いします!」
「あ、ああ。わかった、ユカ様のためだ!」
「オレは森に行って少しでも大きな獲物を取ってくるぜ。ユカ様への恩返しだ」
「ウチにも芋煮会用に取っておいた食材とイモがあるね。生きていれば芋煮はまたつくれるから、今は我慢するかね」
こうしてカンポ村では村民たちが一人、また一人と食材を提供してくれた。
「皆様、ありがとうございます!」
これでカンポ村での食力確保は出来た。
次の目的地は領主の館と周辺の村だ。
僕とルームはワープ床を使い、冒険者ギルドの町に戻りそこから領主の館に移動した。




