427 一罰百戒の覚悟
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これは僕がフランベルジュ領のカンポ村に向かう前に見た話だ。
ミクニからの武士団が集結し、自由都市リバテアでは物々しい雰囲気になっていた。
「一体何が始まるんですか?」
「大惨事にならないための大戦だ!」
冗談を言う人も見受けられるが、街全体がピリピリした状況である。
千人を超えるミクニの武士団が一か所に集められているのだ。
「皆の者、吾輩達はこれより決戦に向かう、心残りの無きよう今のうちにしっかりと羽を伸ばすがよいぞ、金のことは気にするでない。ミクニの国王としてお前達の保証はしてやる。ただし、住民に危害を加える者は処罰するので、その覚悟を忘れるでないぞ!」
そう言うとリョウカイ様は一人の武士を全員の前に突き出した。
「この者は、武士団は魔物を倒すからと店主に品物をタダで寄こせと言っていた愚か者であるぞ。本来なら死罪も已むをえぬが、ここでは吾輩達が客人である。そのような場所で血を流すべきではないので、百叩きで許してやった」
今後ろ手に縛られ、座らされているのは百人長と呼ばれる隊長クラスの武士だ。
リョウカイ様はその者を自ら木刀で叩き出した。
バシッ! バシッ!!
激しい音が辺りに響く。
武士団達はそれを誰一人として目をそらすことなく、注視していた。
「吾輩はこの者が憎くてやっているのではない。むしろ彼は吾輩の信用する百人長だ! だが、規律を乱し……住民を脅かすことは許せぬこと。ゆめゆめそれを忘れるでないぞ!」
百人長はリョウカイ様の百叩きを耐え続けた。
リョウカイ様はレベル40近く、百人長は言ってもレベル20台後半だ。
普通なら気絶してもおかしくない痛さだろう。
だが百人長は最後までそれを耐え抜いた。
「皆の者、吾輩はお前達の行動に制限をつける気はない。だが、住民を脅かすこと、酔って喧嘩するようなことがあればお前達もこのようになる。百人長が身をもって教えてくれたことを肝に銘ずるがよいぞ!」
それを聞き、武士団達は全員が一斉に頭を下げた。
「「「我ら武士団、リョウカイ様の命に従います!」」」
「うむ、期待しているぞ」
そして武士団は解散し、それぞれが街のあちこちで羽を伸ばし始めた。
誰もいなくなった後、百人長はすぐに治癒魔法がかけられ、リョウカイ様は彼に優しく話しかけた。
「百人長、悪かったな。お前を悪者にして」
「いいえ、これも我らを思ってのこと、私にはリョウカイ様のお気持ちは分かっておりました」
「だがやってもない罪をお前が言い出してきた時はビックリしたぞ」
「しかし誰かが悪者にならなければ、あの中に箍の外れて婦女子を犯したり喧嘩を吹っ掛ける者が出てくるかもしれません。それを考えると私が最初に見せしめになる方が後々部下を処罰せずに済むのです」
なんと、あの百叩きは両者の同意の上の芝居だったのだ!
それを了承したリョウカイ様もだが、それを提案し自ら罰を受ける役を引き受けた百人長も凄い覚悟だと言える。
「お前には辛い役をやらせてしまったな、今日は飲もう。朝まで飲むぞ!」
「はい、リョウカイ様! 朝まで付き合います!!」
彼等には、僕達の計り知れない深い絆があるのだろう。
リョウカイ様と百人町の二人は肩を組んで酒場の方に姿を消した。
「まったく、兄上は相変わらずですね」
「リョウクウ様、見ておられたのですか」
「はい。兄上は実直で、曲がったことが許せない性格ですから。実はあの百人長に芝居の話を持ち掛けたのは小生だったのです。しかしあそこまで本当に百叩きをするとは思いませんでしたが……」
僕はミクニの人達のこの態度に唖然としてしまった。
この人達は絶対に敵にしたくない、僕はそう思った。
「さ、さて僕はフランベルジュ領に向かいます。」
僕はミクニの武士団に街を任せ、フランベルジュ領のカンポ村に向かった。




