423 この領地の今後について
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リゾート男爵は領地の立て直し計画を考えていた。
「あ、ユカ様。実は見て欲しいものがあります」
「はい、わかりました。見て欲しいものとは何でしょうか?」
リゾート男爵はこの付近の地図をテーブルの上に大きく広げた。
「現在滅びてしまった村はこの辺りになります。その場所を再び村にするためにはどう考えても今のこの領地の人数では足りないと思うのです」
前領主でリゾート男爵の弟だったバスラ伯爵が巨大なグリードスライムになり、領主の館とその周辺の村は全てグリードスライムに飲み込まれてしまった。
そのため、この場所は、土地は有れども人がいない状態になっているのだ。
「そうですね。この場所に入植したいという人たちがいれば良いのですけど」
「ユカ様、私は戦争の難民や迫害されている亜人種達をどんどん受け入れようと思うのです」
この国の貴族は差別的な血族主義者が多い。
特に公爵派と呼ばれる貴族達は大半がそう言った連中だ。
ゴーティ伯爵のような領主の方が少ないと言えるだろう。
「お恥ずかしながら、私もかつては弟と大差ない差別的な貴族主義でした。しかし廃嫡されて僻地に追いやられ、その場所で私は思い知ったのです。貴族の地位を失った私は召使いにも事欠くようになり、一人では何もできませんでした。そんな私を助けてくれたのはその土地に住む住民達だったのです」
「そうだったのですね」
「私は疑問に感じました。なぜ地位も何も失った私をこの僻地の住民達は温かく迎えてくれたのか、その答えは私の父にありました」
「お父さんにあったとは、どういうことですか?」
「父は、余暇の度にこの離宮に訪れてここの住民達と一緒に過ごしていたのです。その時には父自ら農作業を手伝ったりして、住民の声を聞いていたのでしょう」
なるほど、つまりはリゾート男爵のお父さんがこの土地の人達と親しく接していたので、リゾート男爵が追いやられた時に住民が親身になってくれたというわけか。
「それから私は金も地位も無いながらも、住民と一緒に過ごしました。山に行って一緒に獲物を取ったり、森から食材を探したり、それは……屋敷の中にいるだけでは体験できない素晴らしい時間でした」
「ボク達が最初にお会いした時も釣りをしていましたよね」
「ハハハ、そうでしたね。私はこの素晴らしい自然をもっと多くの人に知ってもらいたい。父の愛したこの土地を美しい観光地にして多くの人に来ていただきたいと考えています」
「ふむ、良い心がけじゃな。お主、良い領主になるじゃろうて」
ドラゴンの神様のアンさんがニッコリと微笑んでいた。
「ユカ様、不幸中の幸いと言うべきか、バスラが作った街道はゴミ捨て場に行くために道を大きく広げ、舗装されていました。私はその場所を大型の馬車が通れるようにし、何十人もの団体が泊まれるホテルを作ることでこの領地を美しい観光地として盛り上げたいと考えています」
「それは楽しそうだねェ。まあこれだけきれいな場所なら泊まれる場所と食べ物さえ満足できれば観光地としては十分成り立つだろうねェ」
「それに、エリア様、ユカ様が作ったあの大きな花畑。あれはこの領地で最高の観光の名所になります! あれだけ素晴らしい花畑は帝国広しといえど、どこにもないものでしょう」
リゾート男爵のアイデアは素晴らしいものだった。
そんなつもりはなかったが、ボクとエリアさんがバスラ伯爵のゴミ捨て場を巨大な花畑にチェンジしたのが、観光の名所になるとは思いもつかなかった。
「ユカ様、私はこの領地を来た人誰もが幸せになれる場所にして見せます。それは観光で来る人、入植する人どちらにとってもそういう場所になるようにすることで実現します」
「わかりました、リゾート男爵。これからも頑張ってください!」
「はい、ユカ様。皆様。本当に、本当にありがとうございました」
リゾート男爵はボク達に深々と頭を下げてお礼をした。




