422 享楽的かつ残忍な性格
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「うぐぇええ!! ぎ、ぎもぢわるぃいいいーっ!!」
魔将軍アビスはえも言えぬ気持ち悪さに襲われていた。
「なんでなのよ! バスラちゃんはアタシちゃんの力でもっと絶望を集めてるはずででしょ! それが何でこんなに力が抜けていくような気持ち悪さになるのよ!!」
「荒れているようだな、アビス殿」
「あ、アンタは……パンデモニウムちゃん」
魔獣の四本足に上半身は屈強な人型、そして全身に鎧をまとった魔族の男、彼は荒れている魔将軍アビスに語りかけた。
「そうだ、今戻った。こちらは順調だが、アビス殿は順調とは言えないようだな」
「どうして、どうして、アタシちゃんが何でこんなに苦しまなきゃいけないのよ! 苦しむのはクズの人間どもでしょ!! それなのになぜアタシちゃんがこんなに気持ち悪いの!! ……うぐぅえぉおおおええぇぇぇ」
気持ち悪さを我慢できない魔将軍アビスはその場に嘔吐してしまった。
その表情はとても美少女がしていいような表情ではなかった。
「まあ身体を厭え。我は万の大軍を魔界より呼び寄せる途中なのでな、アビス殿に構っているヒマは無いのだ。万の大軍が揃い次第、ゲートに異界門を開いてもらう」
「……それで、後どれくらいかかりそうなのぉよ! うぐえぇぇえ」
「そうだな、後二週間。もう少し万全を期すなら一か月と言ったところか」
『魔将軍パンデモニウム』
彼は猛将であるが、冷静沈着な判断もできる。
彼の中ではあと一か月あれば確実に世界を蹂躙できると見ているようだ。
「しかし期待はずれだったな、あのアビス殿の自慢のスライム、後二週間は帝国を滅茶苦茶に蹂躙してくれると思っていたのだが、たったの一日で消されるとはな」
「それもこれもあの救世主ユカが悪いのよ!! 恩知らずのバグスちゃんはどこかに姿消しちゃうし、スライムちゃんは一日でバー、あー、アタシちゃんってなんでこんなに不幸なの?」
「ガッハッハッハッハ! 長く生きていればそんなこともある。だが待たされた分だけ楽しみは増えるというものだ。生きるというのはそういうものだろう」
「アンタって本当にプラス思考ね、その単純さが羨ましいわ」
「ガッハッハッハッハ! 考えてもみろ、数少ない戦力で頑張って相手を倒すのと、圧倒的に用意した大軍で相手を徹底的に踏みつぶすののどちらが快感だ?」
魔将軍パンデモニウムは享楽的かつ残忍な性格だ。
「そりゃあ、圧倒的な力で相手をいじめた方が楽しいわよね」
「そうであろう、だから我は万の大軍を集めているのだ。人間を殺すくらいなら数千いれば十分だろう、だがそれでは面白くない。数万の大軍で象が無力な蟻を踏みつぶすから快楽を感じるのだ!!」
「確かにそれも楽しそうね、ありがとう、少し元気が出たわ」
魔将軍アビスは大量に踏みにじられる人間を想像し、恍惚の表情をうかべていた。
「アビス殿、貴公には貴公のできることがあるだろう。こんなとこで油を売っているくらいならできることをするべきだ」
「確かにそうね、わかったわ。アタシちゃんは帝国の公爵派貴族を焚きつけて人間同士が結束できないようにしてくるわ」
「頼むぞ、内外から崩されれば蟻が団結できるわけがないからな。我が蹂躙する万の大軍を結成するのにはまだしばらくかかる、それまで人間どもが団結できないように中から壊してくれ。それができるのは貴公だけだ」
話をしていた二人の間にもう一人の男が転送魔法で現れた。
「二人共、状況はどうなっている?」
「あー、ゲートちゃん。こっちは大丈夫よ、パンデモニウムちゃんとどうやって人間を苦しめるか話をしてただけだから」
「そうか。二人共、任せたぞ!」
そう言うと魔将軍ゲートは再び姿を消した。
このように今現在、ユカ達の知らない間に魔族の大軍勢は着実にその牙を研いでいた。




