420 空から領地を見てみよう
「町に向かうのは良いのですが、どうやって移動するのですか? ひょっとしてあの……ここに飛んできたドラゴンに乗れと……?」
「ご明察の通りじゃ、さあ、急ぐぞい」
アンさんはリゾート男爵の前で女の子の姿から巨大な紫のドラゴンに姿を変えた。
「あああわわあわわわわ……」
そりゃあ目の前でいきなり女の子がドラゴンに変わる姿を見たら、普通の人は間違いなく腰を抜かす。
「なんじゃ、そこまで驚くことも無かろうに、さあ、ワシの背中に乗るがよい」
ボク達は足元のすくんで動けなかったリゾート伯爵をアンさんの背中に乗せ、全員乗りこんだ。
「さあ、急ぐぞ。一時もあれば十分到着するじゃろうて」
アンさんがボク達を乗せ、空高く舞い上がった。
風を切って飛ぶアンさんはリゾート男爵の屋敷を背に、あっと言う間に森や街道を飛び越えていった。
「こ……これが父上の愛した我が父の領地だというのですか……」
リゾート男爵は荒れた土地や枯れはてた枯れ木の森、そして寂れた村などを空から見て驚愕している。
「はい。バスラ伯爵が治めていた土地はどこもこんな感じでした」
「やはりアイツは領主の器ではなかった。父上が急死しなければこんなことにはならなかっただろう……」
「どうやらその一件も公爵派貴族が一枚噛んでいるようだねェ」
大魔女エントラ様はこの国で起こっていることを大半知っているようだ。
「そうでしたか、しかし今はそれを追求してももうバスラがいないですから。それに証拠を残す連中ではありません。私はこれからのことを考えることにします」
「立派な領主様になれるよ、アンタはねェ」
アンさんは上空から少し高度を下げ、空を飛び続けた。
「な、何ですか? あれは……?」
「ああ、あれはねェ……」
「ドラゴン様、お願いです、一度あの場所に降りていただけますでしょうか?」
「ふむ、良かろう。少しくらいなら時間はあるからのう」
アンさんは速度を落とし、花畑を踏み荒らさないようにゆっくりと着地した。
花畑に降りたボク達は、リゾート男爵をその場に連れて行ってあげた。
「信じられない、ここはバスラの作ったゴミ捨て場だったのでは……」
「おや、アンタはここがどんな場所だったのか知ってたのかねェ」
「は、はい。それは存じております。一度ヤツに見せつけられたことがありましたので。私や父上の愛する土地を踏みにじり、汚物を捨てる場所にしていたのがこの辺りでした。しかし、ゴミがまるで見当たらない。いや、それどころか汚染された雰囲気が何一つ感じられません」
「それはねェ、ここにいる創世神様の力だからねェ」
大魔女エントラ様がエリアさんのことをリゾート男爵に紹介した。
「素晴らしい花畑です。流石は女神様、私はこれほど素晴らしい花畑を見たことはございませんでした」
「いえ、私だけの力ではありません。ここにいるユカのおかげです」
エリアさんはボクがこの花畑を作ったことをリゾート男爵に伝えた。
「貴方が噂の救世主様だとは存じておりましたが、まさかこれほどの力をお持ちだとは存じませんでした。ユカ様、私は貴方がたに救われました。いや、私だけではなく、父上の愛したこの領地の人すべてが貴方がたのおかげで救われたのです」
リゾート男爵はボクとエリアに深々と頭を下げた。
「そんな、ボク達は自分のできることをしただけです」
「そうですか、それでは私も自分のできることをさせていただきます。ここを国一番の美しい観光地にして、来た人誰もが幸せになれるそんな土地にして見せます!」
リゾート男爵はバスラ伯爵と違い、私欲で動く人物ではなかった。
ボク達へのお礼をこの場所を美しい観光地にする事で恩返しするといっているのだろう。
「さて、それでは時間が無いのでそろそろ街に向かうかのう」
「はい、アンさんお願いします!」
ボク達はその日の夕方、スライムの被害を免れた町に到着した。




