418 ゴーティ伯爵の情報網
ボクはマップチェンジで作ったワープ床を使い、冒険者ギルドの町の自分用の部屋からゴーティ伯爵の城に向かった。
「けほっ、けほ……ここはひどい埃だなー」
『ユカ、ルームが言っていたが、だからこそカモフラージュには最適だということだ』
『なるほど、たしかにこんな物置小屋に一瞬で移動できる床があるなんて誰もわからないでしょうね』
『だが、今回はそれが必要なので、ゴーティ伯爵に伝える必要があるぞ』
『ソウイチロウさん、わかりました!』
ボクはゴーティ伯爵の城に移動し、執事の人に応接の間に通してもらった。
この城の人はもう慣れたものなのか、ボクがいきなり城の中に現れても何も警戒することは無さそうだった。
◇
「ようこそ、ユカ様。よくお越しくださいました」
「ゴーティ伯爵様、実は急ぎのお願いがあってここにきました」
「わかってますよ、いきなり貴方が現れるのですから、これはまた何かあるというくらい想定できます」
ゴーティ伯爵はボクの考えがわかるようだった。
「それで、今度は誰を男爵に任命したいのですか? その前に、公爵派貴族の誰が失脚したのでしょうか?」
「ゴーティ伯爵様はどこまでご存じなのですか?」
「ハハハ、私はこの国の大半の事情は把握しております。さしずめ、バスラ伯爵あたりが失脚して、そう追い込んだのがユカ様だと私は見ておりましたが」
流石としか言えない。
ゴーティ伯爵は公爵派貴族だけではなく、ボク達の行動も見ているようだ。
『ユカ、下手なことは出来ないな。ゴーティ伯爵はスパイか忍者をあちこちに放って情報を集めているのかもしれない』
『ニンジャ? ソウイチロウさん、それは何ですか?』
『忍者とは、姿を見せずに主のために色々と情報を集める戦士、まあシーフみたいなものだ。まあ話の続きを聞こう』
ソウイチロウさんはゴーティ伯爵の情報源がどういう形で手に入れているのかを知っているようだ。
まるで長年の冒険者か経験者のような知識量にボクは驚いていた。
「そうです。ボク達は巨大なグリードスライムになったバスラ伯爵を退治しました。そのため今バスラ伯爵領は領主不在の土地になっているのです」
「なるほど、確かにそれは早急に手を打たないと、また公爵派貴族が別の領主を臨時に据える可能性がありますね。それで、もう候補者はいるのですか?」
「はい、ゴーティ伯爵様はリゾートさんってご存じですか?」
ボクはリゾートさんを男爵に任命してほしい旨をゴーティ伯爵に伝えた。
「ええ、存じておりますよ。ローカル伯爵の長男ですね。バスラを伯爵の後継者にするために廃嫡された方です。そうですか、彼を……しかし伯爵への任命は私でも権限がありませんからね。せめて男爵としてならというべきでしょうか」
どうやらゴーティ伯爵の臨時任命権は男爵までに限られるようだ。
「わかりました、今すぐ書類を用意します。少しお待ちください」
「ありがとうございます。ところで、ゴーティ伯爵様、最近ホームさん、ルームさんにはお会いしましたか?」
「いいえ、まだ最近は戻って来ていませんが、前回フワフワ族の集落から帰ってきた以来まだ二人には会っておりませんよ」
「そうでしたか、実はゴーティ伯爵様にお願いがありまして」
ゴーティ伯爵は、書類を書きながらボクの話を聞いてくれた。
「お願い……ですか? まあ私にできることでしたらご協力致しますよ」
「ありがとうございます。それではこの城の選りすぐりの戦士達を集めてもらえますか?」
「それは……穏やかな話ではなさそうですね。何ですか? まさか、公爵派貴族と戦争でも始めようというのですか??」
ゴーティ伯爵の表情が少し険しくなった。
「いいえ、そうではありません。申し訳ありませんが、ボクの話を……聞いてもらえますか?」




