417 バスラ伯爵とリゾートさん
リゾートさんは如何にも品の良さそうな紳士といった感じの男性だった。
「貴方がリゾートさんですか。バスラ伯爵はご存じですか?」
「バスラ? ああ、彼は私の腹違いの弟です。彼が何かをしたのですか?」
「はじめまして、ボクは『ユカ・カーサ』と言います。初めまして、リゾート伯爵」
「いえいえ、確かに『バスラ・ローカル』は私の弟ですが、私は廃嫡されているので伯爵でも何でもありません。ただのリゾートで結構です」
リゾートさんはどうやら公爵派貴族の権力争いで負けて伯爵の後継者になれなかったらしい。
「それではリゾートさん、正直に言います。ボク達はバスラ伯爵を倒しました」
「え? あの……話が見えないのですが??」
「それではそれについては妾が説明しようかねェ」
「失礼ですが、貴女はどちら様ですか?」
大魔女エントラ様が不敵な笑みを浮かべた。
「妾は大魔女エントラ。この国では流星の魔女と言われてるかねェ」
「あ、貴女様が高名な流星の魔女様! お目にかかれて光栄です」
リゾートさんはビックリしてしまい、思わず釣竿を湖に落としてしまった。
「あっ!」
「いいんです。どうせ安物ですし。それよりお話の続きをお願いします」
リゾートさんは元貴族とは思えない腰の低さで、物腰の柔らかい人だった。
「アンタの弟、バスラ伯爵はねェ、魔族に魂を売って巨大なグリードスライムになってしまったんだねェ。そのせいで多くの命が失われ、村がいくつも滅んでしまったねェ」
「あいつ……欲にくらんでそんなことまでしでかしたのか、それで……あの愚弟はどうなりましたか?」
「ここにいるユカがグリードスライムになったバスラ伯爵を退治したんだねェ」
実際は大魔女エントラ様とアンさんがやってくれたのだけど、大魔女エントラ様はボクがグリードスライムを倒したという話に持って行った。
「そうですか、失われた命や村はもう戻りません。しかし、あなた方はそれ以上に広がる災厄を食い止めてくれたのです。この地に住む者を代表してお礼を申し上げます」
本人は廃嫡されたと言っていたが、リゾートさんはこの土地に住む当事者として誰よりもふさわしい態度でボク達にお礼を言ってくれた。
「それで、今この土地には統治者がいません。もしこのままでは再び公爵派貴族がバスラに代わる悪徳貴族を据えて前と同じかそれよりも悪化してしまうかもしれないのです」
「それで、私にどうしろというのですか? 私は本来の戸籍を偽造され、庶子のバスラが貴族の正当な血を継ぐという公式書類で廃嫡され、爵位を継げなくなったのですが」
血族主義の公爵派貴族だが、こういう場合は血よりもいかに自分達に都合が良いかを優先しているらしい。
本来の血族主義ならリゾートさんが伯爵になるのが当然だと言える。
今回のことでボクはリバテアの街のことを思い出した。
あそこでボク達のしたことは、旧バレーナ村の村長さんを臨時の法令を使い男爵に就任させたことだ。
今回のケースでもそれは適応できるはず。
「大丈夫です! ボク達に任せてください」
「そうですか。せっかくお越しいただいたのですから、皆様昼食を一緒にいかがですか?」
リゾートさんはニッコリと笑うと、数少ない召使に食事を用意させた。
『ユカ、今は食事よりも急いだ方が良い。ゴーティ伯爵に会って臨時の男爵任命権を用意してもらおう!』
『ソウイチロウさん、わかりました!』
ボクはみんなに一言伝え、ゴーティ伯爵の城に向かうことにした。
「みんな、先に行っててくれるかな。ボクは用意するものがあるから後ですぐに戻ってくる」
「……ああ、そういうことねェ。わかった」
「ふむ、料理が冷める前に戻ってくるんじゃぞ」
そしてボクは誰もいない場所で、マップチェンジのスキルを使ってワープ床を作った。
「目の前の土地をワープ床にチェンジ!」




