416 テリトリー公爵
バスラ伯爵がスライムになってしまい、挙句の果てには消滅したことで、現在この領地は領主不在の土地になっていた。
「ゴミ掃除が終わったのは良いけど、ここの領主不在ってのがねェ。このままだと公爵派貴族がまたいらないのを送り込んできそうな感じだねェ」
「エントラ様、公爵派貴族って一体何者なのですか?」
公爵という名前、そして公爵派貴族というのはこの旅の中でも何度か聞いた名前だ。
『ユカ、私が聞いた中でも公爵派貴族というのは何度か聞いた、多分だがその公爵という人物がこの国における悪徳貴族をまとめている奴だと見て間違いないだろうな』
『ソウイチロウさん。公爵が何者かがわからないと、手の打ちようがありませんよ』
ボクが心の中でソウイチロウさんと話していると、大魔女エントラ様が語り出した。
「公爵、妾の知る限りではこの国の公爵でそれ程の力を持っているのは……『テリトリー公爵』だろうねェ」
「テリトリー公爵? それは一体誰なのですか?」
ボク達が初めて知った名前、テリトリー公爵。
それがボク達を敵視している悪徳貴族のボスだと考えていいのだろう。
「テリトリー公爵は、この国がまだ帝国を名乗る前からの王国時代の大貴族だねェ。ボルケーノ大臣を失脚させた後はこの国の経済や外交等を仕切っているから、彼の身内は金をかなり持っているようだねェ」
相手は公爵、皇帝に次ぐ地位と権力を持っているのだ。
それを考えると、ボク達の敵はこのグランド帝国の半分くらいだと見ていいのかもしれない。
「まあ不幸中の幸いと言えるのは、テリトリー公爵の身内には軍事関係に強いのがいないことかねェ。パレス大将軍とゴーティ坊やが騎士団を指揮していたので、テリトリー公爵の身内には騎士団にそれほど影響を与えられるのがいなかったってとこだねェ」
つまり、テリトリー公爵の派閥は、金と外交は好きにできるが、法律や軍事にはそれほど力がないということでいいのだろうか。
「それだと、ここのバスラ伯爵がいなくなった後、そのテリトリー公爵の身内が乗りこんできたらまたここの住民達が重い税や弾圧で苦しめられてしまうということではないのですか?」
「まあそうさせないように妾が今方法を考えているからねェ」
大魔女エントラ様はこうなることを想定していたようだ。
「そうだねェ。ここから少し離れた場所にいるバスラの兄のリゾートの所に行ってみるかねェ」
「リゾートさん? それは一体誰ですか?」
「リゾートは、公爵派に失脚させられたバスラ伯爵の兄だねェ。不幸中の幸いにあのグリードスライムの発生したバスラの屋敷から遠く離れた場所で軟禁されているようだねぇ」
「エントラ様、それではボク達は今からそのリゾートさんに会いに行けば良いのですか?」
「そうだねェ。妾が見た感じ、リゾートのいる離宮はここからそう遠くないからねェ」
ボク達はリゾートさんに会うためにそこに向かうことにした。
「皆さん、南方に向かう前にまずここの住民の人達を安心させましょう。今からボク達はリゾートさんに会いに行きます」
「決まりじゃな。良かろう、ワシの背に乗るがよい」
「わかりました」
「俺も賛成だ。少しでも早くこの混乱を落ち着けさせないと」
ボク達はドラゴンの姿のアンさんの背中に乗せてもらい、西南西の方角を目指した。
そして小一時間もしないうちにボク達は風光明媚な離宮に到着した。
「キレイな場所……」
「エリアさん、そうですね」
「ユカ坊、今から降りるぞ。振り落とされんようにな」
アンさんはゆっくりと速度を落とすと低空飛行になり、離宮の湖に着水した。
「な……何ですか? 貴方方は!?」
そこにいたのは品の良い紳士で、彼は釣竿で釣りをしていた。
「驚かせてしまい申し訳ありません。ボク達はリゾートさんに会うためにここに来ました」
「リゾート……? リゾートは私ですが、一体どういったご用件でしょうか?」




